
今回は、いわゆる「ブラック校則」と呼ばれるものについて、具体的な例を挙げながら問題点を整理し、見直しの動きについて解説します。
1. ブラック校則とは?
ブラック校則とは、一般常識からかけ離れた、合理的ではない校則を指します。生徒から見ると「なぜこれがダメなの?」と疑問に思うような、教員から見ても生徒に納得のいく説明ができないにもかかわらず、強引に守らせようとする校則が問題視されています。ニュースなどで取り上げられた例として、以下のようなものがあります。
- ツーブロック禁止
- ポニーテール禁止
- 毛髪証明(生まれつきの髪色を証明させる)
- 眉毛の手入れ禁止
- 下着の色の指定
- カイロなど防寒具禁止
- スカートから膝が見えたらダメ
- カップルは一緒に帰ってはいけない
2. 裁判になった事例
ブラック校則が原因で裁判にまで発展した事例もあります。大阪の公立高校に通う女子生徒が、生まれつき茶髪っぽい髪を黒く染めるよう教師らに強要され、その結果不登校になったとして、大阪府を相手に損害賠償を求める裁判を起こしました。この生徒は指導の際に過呼吸で倒れ救急搬送されたり、文化祭や修学旅行に茶髪を理由に参加させてもらえなかったりといった状況に追い込まれました。この学校では、外国人でも髪を黒に染めさせるなど、徹底した指導を行っていたといいます。
※この裁判自体は2021年2月に大阪地裁から判決が出ており、大阪府に対して一部賠償が命じられましたが、頭髪指導の違法性は認められませんでした。
参考:https://times.abema.tv/articles/-/3914490
3. なぜブラック校則は生まれるのか?
校則が制定された当時は、何らかの背景や目的があり、学校が必要だと認識していたと考えられます。例えば、ツーブロック禁止は、「外見等が原因で事件や事故に遭うケースがあり、生徒を守るため」という考えがあったようです。髪の毛の色は「風紀の乱れを防ぐため」、下着の色は「体操服から下着が透けないため、個性を出すことでいじめにつながる可能性があるため」といった理由付けがなされる場合があります。
しかし、以前と現在では社会状況や常識が変化しており、以前は妥当とされていた理由が、現代では通用しなくなっているケースがあります。校則の背景や目的が変わっているにもかかわらず、校則だけがそのまま残り、教員もその指導を続けてしまうという状況が生まれています。
また、教員と生徒の価値観の違いも原因の一つです。教員は、以前の学校教育を受けて大人になっているため、「茶髪は風紀を乱す」や「校則はそもそも従うもの」という考えを持っている場合があります。一方、生徒は以前とは異なる社会状況の中で生きており、社会的に活躍している人の中には髪を染めている人も多くいるため、「風紀を乱す」と言われても納得できないでしょう。このような根本的な考え方の違いがある中で、以前から踏襲されているものをそのまま守らせようとするのは無理があります。
参考:https://www.gikai.metro.tokyo.jp/record/budget/2020/3-06.html
4. ブラック校則が与える影響
ブラック校則が生徒に与える影響は深刻です。生徒の容姿に関わる校則は、個人の尊厳を傷つけ、不登校につながる場合もあります。また、下着の色指定など、守らせるための指導が行き過ぎるとハラスメントや体罰と受け取られる可能性もあります。
ブラック校則は、指導する教員にも影響を与えます。理不尽な校則を生徒に強いることは、教員自身にとっても葛藤を生み、ハラスメントに近い行為につながるリスクもあります。また、保護者からの問い合わせに対して、校則の必要性を説明する責任も生じます。
5. ブラック校則は見直される?
文部科学省が公開する「生徒指導提要」が12年ぶりに改訂され、校則の見直しや運用について明記されました。具体的には、
- 校則の背景や理由を教職員が理解すること
- 校則の内容を学校のホームページ等に公開すること
- 校則制定後の社会状況の変化を踏まえ、校則の意義を適切に説明できないものは、見直しを行うこと
などが求められています。
東京都では、これに先駆けて2022年4月より、ツーブロックの禁止など必要性が定かではない5項目を廃止しました。
参考:
- 生徒指導提要改訂(案)https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1404008_00001.htm
- 校則公開の例(岐阜県)https://school.gifu-net.ed.jp/wordpress/mizunami-hs/information/%E6%A0%A1%E5%89%87%EF%BC%88%E7%94%9F%E5%BE%92%E6%8C%87%E5%B0%8E%EF%BC%89/
- 都立高等学校等における校則等に関する取り組み状況について https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2022/release20220310_03.html
6. まとめ
本来、生徒が安全に学校生活を送り、成長していくために定められたはずの校則が、逆に生徒を苦しめる場合があります。また、その校則が教員をも苦しめかねない状況です。校則はあくまで目的を達成するための手段であり、学校の教育方針(スクールポリシー)に沿って運用されるべきです。各学校では、校則の目的を改めて見直し、必要に応じて改定していくことが求められます。