
今回は、公立学校と私立学校の違いを、配属や異動という視点から整理し、それぞれの働き方について解説します。これは働き方に直結する重要なポイントですので、ぜひ確認していきましょう。
1. 公立と私立の役割の違い
具体的な話に入る前に、公立と私立の役割の違いを確認しておきましょう。
公立学校は、いわゆる「ナショナルミニマム」と言えます。国民全員に最低限の教育を行うことを目的としています。公立の小学校同士や中学校同士が隣接していないのは、均等に配置することで教育機会の偏りをなくすためです。
一方、私立学校は、独自の特色ある教育を行いたいという志を持つ人々が、自身の財産や寄付金などを集めて設立する学校です。そのため、独自性が強く出ることが特徴です。公立学校とは異なり、私立学校同士が隣接する場合もあります。
2. 公立学校の配属までの流れ
公立学校では、自治体が教員を一括採用し、配属先を決定します。
教員志望者から見ると、まず教員採用試験を受け、合格する必要があります。しかし、合格したからといってすぐに採用が決まるわけではありません。
合格後、実際には2月か3月頃に配属先の学校長から連絡がくることで、採用と配属先が正式に決定します。自治体によって流れは異なりますが、合格者が配属先の学校を選べるわけではありません。
各自治体は教員採用試験の合格発表後に、実際に必要な教員数を集計します。そのため、合格者数よりも必要教員数が少ない場合は、採用されないこともあります。
公立学校の教員数や職員数は法律(小中学校の場合は義務標準法、高校の場合は高校標準法)で定められています。※
※正式名称:公立義務教育諸学校の学級編制および教職員定数の標準に関する法律 ※正式名称:公立高等学校の適正配置および教職員定数の標準等に関する法律
この法律は、1学級の児童・生徒の人数や教職員数を定めています。例えば、9学級ある高校では、校長1人、副校長や教頭1人、教諭23人、養護教諭1人、実験助手1人、事務職員2人といった内訳で、合計29人の教職員を配置できます。
このように公立学校では、学校ごとに働く教職員数が法律で決まっているため、各学校の判断で増やすことはできません。教職員の定数を増やすことについては、文科省と財務省で協議が行われていますが、現状はうまくいっていないようです。このような事情もあり、教員採用試験の合格者が全員採用されないという状況が発生しています。
参考:
- 文部科学省資料 https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20200221-mext_syoto02-000005101_5.pdf
- 文部科学省資料 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/029/shiryo/05072002/002.pdf
3. 私立学校の配属までの流れ
私立学校の場合は、公立学校のように自治体による一括採用はありません。各学校が必要な人数を個別に採用します。教員数も公立学校とは異なり、各学校が自由に決められます。
例えば、東京都で私立高校を設立する場合の基準では、「校長のほか、学級ごとに専任の教諭1人以上を置かなければならない」とされています。最低限の教職員数は決まっていますが、公立学校に比べると融通が利きやすく、学校の事情に応じた教員数を配置することが可能です。
4. 異動の有無
公立学校には異動がありますが、私立学校には基本的に異動はありません。
公立学校では、3年や5年を目安に異動があります。教員も異動先の希望を出すことはできますが、必ずしも希望通りになるとは限りません。同じ自治体内の学校でも、児童・生徒の雰囲気は大きく異なります。また、学校間の異動ではありませんが、文部科学省の検討会議で、全ての教員が採用後10年程度の間に特別支援学級の担任などを2年以上経験することが望ましいとする報告書が出されたことが話題になりました。公立学校では、採用後も多彩な学校や幅広い児童・生徒を経験することが大きな特徴と言えるでしょう。
一方、私立学校では、各学校が独自に教員を採用するため、基本的に他の学校へ異動することはありません。ただし、複数のコースや学科を設けている学校の場合は、コースや学科ごとに生徒のタイプが異なるため、コース等をまたいで指導することもあります。そのような学校では、公立学校ほどではありませんが、ある程度生徒のタイプに幅があることを知っておいた方が良いでしょう。
5. 公立、私立が働き方に与える影響
異動のある公立学校と異動のない私立学校では、働く際にさまざまな影響があります。大きく3つの点から見ていきましょう。
- 指導の幅と深さ: 異動のある公立学校では、異動をするたびに新たな児童・生徒の指導経験を積み、指導の幅が広がります。一方、異動のない私立学校では、特定の生徒たちの指導経験を深く積み重ねていくことになり、その生徒たちに適した指導方法や考え方を養えます。これは指導の深さと言えるかもしれません。
- 自分の価値観とのマッチング: 公立学校では、自分に合う学校があっても数年後には他の学校へ異動しなければなりません。逆に言えば、合わない学校だった場合は、数年後の異動で環境を変えられます。私立学校では、合う学校であれば長く働けますが、もし合わない場合は転職を考えることになります。
- 職場の人間関係: 公立学校では毎年教職員の入れ替わりがあるため、その都度、人間関係作りやチームビルディングが行われます。私立学校では、すでに人間関係が出来上がっている環境に自分が加わることになります。そのため、人間関係の合う合わないを公立学校より強く感じる可能性があります。
これらの違いは、教員の就職活動で考慮すべき重要な点です。どのような環境で働くかは、働く際の価値観に大きな影響を与えます。教員の場合は、どのような考えの学校で働くのか、どのような児童・生徒と関わるのか、どのような仲間たちと一緒に仕事をするのかといったことが価値観に影響を与える要素として挙げられます。先述の異動によって起こる3つの点は、人によって重要度やプラス・マイナスの捉え方が異なると思いますが、事前にしっかりと考えておくことをおすすめします。
6. まとめ
今回は、公立学校と私立学校の違いを配属や異動という観点から解説しました。どちらが自分にとって良いと思えるかは、個々の考え方次第です。それぞれの違いをしっかりと理解し、じっくりと検討してみてください。