小学校はすべて35人学級へ!推進される理由や課題について解説

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35人学級はいつからはじまる?推進される理由や課題について解説
小学校では、小学1年生のクラスの定員上限が35人、2~6年生の定員上限が40人と定められていました。しかし2021年の法律改正により、小学校のすべての学年で1クラスの定員上限が35人となる「35人学級」の導入が令和3年度より段階的に行われています。なぜ今、35人学級が推進されることになったのでしょうか。今回は35人学級の基本的な情報と各学年で35人学級が始まる時期、35人学級が推進される理由やメリット・デメリット、課題について解説します。

35人学級とは?

35人学級とは? 小学校の1クラスあたりの定員は40人が上限でしたが、2021年3月、この上限が35人に引き下げになる改正義務教育標準法(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)が可決されました。

これまでは小学1年生のクラスのみ35人学級が上限となっていましたが、今後は40人が定員上限だった公立小学校の2~6年生も35人が上限となり、段階的にすべての学年が35人学級になる予定です。

今後は、全国すべての小学校で35人学級への移行が開始されます。生徒数が少ない地域の小学校では、学年によってはすでに35人を上限としているところもあるため、地域によっては35人学級へ移行されても大きな影響とはならないこともあります。

少人数指導・少人数授業との違い

少人数で行う学習指導方法には、少人数指導や少人数授業があります。どちらも国語や算数など特定の教科において、クラスの枠を越えて生徒一人ひとりの習熟度や興味・関心などに応じた複数の少人数グループを作り、生徒に合った指導を行う方法です。一度に指導を受ける生徒の数を少人数にすることで、より生徒に合った指導が可能です。

これに対し、少人数学級はクラスそのものの定員が少人数という点が大きく異なります。同じ少人数での指導にはなりますが、特定の教科のみ少人数で行うのではなく、すべての授業を少人数のクラスで行うこととなります。

35人学級はいつからはじまる?

前述のように、小学1年生に限ってはすでに35人学級が始まっています。その他の小学2~6年生のクラス定員上限は、令和3年度からの5年間で1年に1学年ずつ段階的に35人に引き下げられます。令和3年度は小学2年生が35人学級へ移行されており、令和4年度以降も1年ずつ上の学年へ移行を進め、以下の通り令和7年度までには公立小学校すべての学年が35人学級となります。
学年 移行開始年度
小学2年生 令和3年度
小学3年生 令和4年度
小学4年生 令和5年度
小学5年生 令和6年度
小学6年生 令和7年度

35人学級が推進される理由

35人学級には、2020年以来続くコロナ禍において感染症予防につなげる「三密」の回避が実現しやすいなどの副次的効果がありますが、35人学級を推進する主目的として、2種類の学びの実現があります。以下では、35人学級が推進されると理由であるそれぞれの学びについて解説していきます。

個別最適な学びの実現

35人学級が推進される理由としてまず挙げられるのが、「個別最適な学び」を実現することです。個別最適な学びとは、生徒一人ひとりの個性や理解力、興味や関心などに合わせて最適化し、学びの機会を設けた学習を指します。全ての生徒が持つ可能性を引き出すための指導と学習の個別化を図ることで、生徒に合わせた柔軟な指導と専門性の高い学習機会の提供を目指すことも目的です。

そして個別最適な学びは、次に紹介する「協働的な学び」と連携してインプットとアウトプットを繰り返すことにより、新しい気づきが生まれることが期待できます。

協働的な学びの実現

協働的な学びとは、生徒の個性や資質を活かしながら他の生徒同士で協働して学ぶことです。これは2019年改訂の学習指導要領に盛り込まれたキーワードで、学ぶ内容だけではなく「どのように学ぶか」も重要視されており、それに伴い授業内容も改善される見込みです。

協同的な学びでは同じクラスや学年の生徒にとどまらず、他の学年や地域の人などを含めた人と協働し、義務教育を受ける生徒を対象としたGIGAスクール構想で「1人1台に整備」として取り組まれているICT端末も活用しながらまとめた意見や考えをグループで共有、議論をします。35人学級では、協同的な学びと個別最適な学びを並行して進めることで、より生徒の学びを深められる期待ができます。

35人学級のメリット

35人学級のメリット 小学校のクラスを35人学級に引き下げることは、ただ単純にクラスの生徒数が減るだけではなく、生徒と教員双方にさまざまなメリットがあります。生徒の学びに対するメリットはもちろん、学校生活で起こり得る問題解決や対応の手厚さなどが改善すると見込まれます。では、35人学級には具体的にどのようなメリットがあるのか、見ていきましょう。

学力向上が期待できる

35人学級は従来の定員よりも1クラスあたりの人数が減ることから、生徒一人ひとりに目が行き届きやすく指導にかけられる時間も増えます。生徒が多いクラスでは、1人の先生のみでは全ての生徒に十分対応できないことも多いですが、人数が減ると生徒の発言の機会を増やして授業を活性化させたり、生徒が抱える問題の解決を進めたりしやすくなることから、学力向上が期待できる点がメリットです。

授業内容がいまいち理解できない、苦手な教科がある生徒には理解できるまでじっくりと指導を行い、逆に十分理解できている生徒に対しては応用問題を出すなど、生徒に合った指導やサポートもしやすくなります。

ICT教育が進めやすくなる

「協働的な学び」でも触れたGIGAスクール構想とは、1人1台の学習用端末とネットワーク環境を整備する計画ですが、この構想ではパソコンやタブレットなどのICT端末を活用して生徒一人ひとりに合ったきめ細やかな指導を目指しています。35人学級であればすべての生徒に目が届きやすく理解を深めてもらいやすく、端末などを用いた授業でも生徒に最適な授業が可能となるため、GIGAスクール構想に基づいたICT教育を進めやすくなるメリットがあります。

生徒の様子を把握しやすくなる

1クラスを1人で担当する教員は、生徒数が多いクラスでは負担が重くなってしまい、各生徒への対応が不十分になりがちです。そこで35人学級でクラスの人数を減らせば、教員の負担が減りゆとりも生まれるので、クラスの全ての生徒へ目を向けやすくなり対応もしやすくなります。生徒に何かしらの変化があったときもサポートし、場合によっては個別に指導や相談などを行い寄り添しやすくなるので、生徒との良い関係を育める環境が整うことも期待できます。

いじめや不登校に対応しやすい

人数の多さは、必ずしもクラス内でのいじめや不登校の多さに比例するとは言えませんが、一般的に人数が少ないクラスの方が登校しやすいと感じる生徒が多いといわれます。クラスの人数を減らすと、生徒にとって通いやすい環境になると同時に、教員も各生徒の様子を把握しやすくなり、いじめの早期発見や不登校の生徒への対応も容易になるのも35人学級のメリットです。もし不登校の生徒がいたとしても、クラスの生徒が減るとともに教員の負担も減るため、より手厚く対応しやすくなります。

35人学級のデメリット

クラスの定員上限が減ると、小学校の規模によってはクラスの数を増やす必要もあります。35人学級には生徒と教員どちらにもメリットがありますが、1クラスの生徒数が減りクラス数が増えることによってデメリットが生じるのも確かです。35人学級のデメリットとしては、以下の2点が挙げられます。

友達を増やす機会が減る

小学校のクラスは、友達作りのきっかけが生まれることが非常に多く、友人関係を築く上で重要です。しかし、35人学級になるとクラスの人数が減るため出会える人の数も減り、気の合う友達が同じクラスにいない状況も考えられます。

クラスで出会える人、気の合う友達を作れる機会が少なくなるばかりか、もしクラスメイトが気の合わない人ばかりだった場合は友達を作りにくい環境となり、クラスに馴染めなくなったり居づらく感じたりする可能性がある点は、人数が減る35人学級のデメリットといえます。

教室や備品などが不足する場合がある

1クラスあたりの生徒数を減らすと、生徒数が多い小学校ではクラスの数が増えます。すると、教室や設備、備品の数が不足する小学校が出てくる可能性があります。近年は少子化が進んでいるため空き教室を活用できる学校もありますが、マンモス校では教室の数が足りなくなることも想定され、校舎の増改築も必要となるでしょう。

段階的に定員上限の引き下げが行われている時点では、空き教室の転用などで対応できていた学校でも、今後35人学級の学年が増えてくると、教室や設備不足が問題となる事態が懸念されます。

35人学級を進める際の課題

35人学級を進める上では生徒や教員にメリットがある一方で、これまでのクラス運営にはないデメリットも想定されています。これから小学校の全学年で35人学級が進める中で、解決や検討が必要な課題についてご紹介します。

教員の確保

35人学級への移行により生徒数の多い学校ではクラスの数が増えると、担任を任せられる教員もクラスの数に応じて必要となります。1学年ごとの移行期間では加配定数の教員の振り替えで対応できていましたが、前述の教室や設備と同じように、今後全学年で35人学級になるとクラス担任を担う教員の確保も重要です。

先んじて35人学級を進めている自治体では、不足分の教員を新規採用することで対応しています。しかし、教員の採用数を上げると教員の質が低下する恐れがあるという新たな問題が発生しかねません。教員の質を下げることなく、35人学級に対応できるだけの教員を確保することが求められます。

政策の目的の不明確性

35人学級を進めるのは「個別最適な学び」、「協同的な学び」の2種類の学びが理由と述べましたが、実はその目的は明確とはいえません。1クラスの人数を35人に減らしても、必ずしもGIGAスクール構想が推進されたりいじめや不登校などのクラスの問題が解決したりするとは限らないからです。海外でも少人数学級を実施している国がありますが、一定の学習成果が上がったケースも見られるものの、明確な教育的な効果が得られる科学的根拠には乏しいといえます。35人学級が小学校での指導内容や生徒の学力向上への有効性が検証されていないため、他の方法の有効性を含めた議論が必要です。

まとめ

小学校における35人学級は、生徒にとっては自分に合った授業や指導が受けやすくなり、学力向上も期待できます。教員側にしても担当する生徒数が減ることで負担が減り、生徒に寄り添ったきめ細やかな指導ができます。他方で、生徒の友達作りの機会が減る、教員や設備の不足などの問題が浮かび上がっているのも事実です。現在は段階的に35人学級が進められている途上にありますが、小学校全学年への35人学級導入前にその効果や目的を明確にした上で、課題やデメリットの解決が求められます。

びす太(KJC-01)

教員人材センター編集部

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