公立教員に残業代が出ない理由とは?その勤務実態に迫る

#給料
#働き方改革

監修者

田坂圭吾

教員人材センター キャリアコンサルタント

教員の働き方

公立学校の教員を目指している方・現在公立学校の教員をされている方であれば、公立教員にいわゆる残業代が支払われないことはご存知でしょう。
しかし、実態としては、業務量の多さから長時間の残業をせざるを得ない場合があり、不満に感じている方も少なくないはずです。
教員に対する働き方改革が進められているとはいえ、それがすぐ世間に浸透するとは限りません。
今回の記事では、教員の勤務時間の実態や、公立教員に残業代が支払われない理由などを、改めて詳しく説明します。
教員としての就職・転職を希望されている方は、学校選びの参考にされてください。



教員の勤務時間の実態

まずは教員の中でも、人口の多い教諭の勤務時間の実態について確認してみましょう。
文部科学省より2018年9月27日に公表された「教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について」によると、中学校教諭の一週間あたりの学内勤務時間が、平成28年度では63時間20分になっており、平成18年度と比較してはっきりと増加しています。
また、教諭以外の職種でも、すべて平成18年度よりも勤務時間が増加していることが明らかとなりました。

このデータに、持ち帰りの仕事の時間は含まれていません。
自宅でもパソコンを立ち上げて作業するなど、実際のところは、これよりも仕事に触れている時間が長い可能性も考えられるでしょう。

また、土日の勤務についても増加傾向にあることが伺え、教育現場の多忙さが手に取るように伝わってきます。

※参考:文部科学省「教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について」

それでは、なぜこのように教員の勤務時間が増え、残業時間が膨れ上がってしまうのでしょうか。


ずさんな出退勤管理

教員の残業時間が増える理由のひとつに、出退勤管理の煩雑さが挙げられます。
企業などであれば、タイムカードや、勤怠管理システムなどを利用し、社員の勤務時間を詳細に記録させます。健全な企業であれば、残業時間があからさまに多い社員には指導が入ることが一般的です。
一方、学校の場合は、報告や点呼・目視などで管理職が出退勤を管理している場合が多く、それらを行う管理職が不在である場合は、教員がいくら残っていても声がかかりません。もちろん、その教員が何時に退勤したかも、管理職は把握できないのです。

そうした背景から、業務量が多い教員は残業をしがちに。

また、仮に管理職がしっかりと教員の出退勤を記録して残業量を把握していたとしても、地方公務員の教員、つまり、公立学校の教員には、時間外勤務手当(残業代)や休日勤務手当は支給されないという現実があります。


※参考:文部科学省「教員勤務実態調査(H28)(追加集計分)」

教員が部活動などに縛られている

また、教員は部活動の顧問を任されることも多いです。
部活動は朝の始業前、放課後、休日にも練習が行われるため、もちろん、顧問である教員もそれに付き添わなければなりません。

また、休日は練習だけではなく、大会のために遠征することや、泊りがけの合宿なども行われます。

部活の時間外での残業も多いため、残業時間がどんどん増えていくのです。


公立教員に残業代が支給されない理由

実態がここまで過酷であるのにも関わらず、公立学校の教員に残業代が支給されないのは、一体なぜなのでしょうか。 その要因は、「給特法」にあります。

給特法は公立学校の教員を対象としたもので、教員の勤務には特殊性があることから、一般的な企業などと同じような時間外勤務手当および休日勤務手当の制度が馴染まず、適用されないとされているのです。

つまり、私立学校の教員には残業代の概念が存在しますが、公立学校の教員には「残業代」の概念が存在しません。


給特法とは

給特法の正式名称は、「公立の義務教育諸学校等の教員職員の給与等に関する特別措置法」。

先ほども少しご説明しましたが、この法律では公立教員に時間外勤務手当および休日勤務手当を支給しないことになっています。

残業代を支給しないことを前提としているため、原則として自治体が公立教員に時間外勤務を命じることを給特法は禁止していますが、仮に時間外勤務を課す場合は、以下の勤務に限られた上で、緊急性のある例外的な場合に限るとされているのです。

・校外実習や、その他生徒の実習に関する業務
・修学旅行や、その他学校行事に関する業務
・職員会議に関する業務
・災害時、生徒の指導に関して緊急の措置を必要とする場合や、その他のやむを得ない業務

以上に該当しないものは、教員が自発的に行ったものとみなされ、勤務時間に換算されません。

また、残業代の代わりに、「教職調整額」と呼ばれるものが支給される決まりになっています。


教職調整額とは

教職調整額とは、毎月、給料月額の4%が支給され、退職手当などの算定の基礎となるものです。
給与の4%がいわば「固定残業代」であり、残業を命じることができるのは上記でご説明した、あくまで例外的な場合のみ。これにより、通常通り残業代が支払われる私立教員との公平性が保たれている、とされています。

しかし実際には、前項で記載した例外的な4パターン以外にもイレギュラーな対応が頻発しており、教員のサービス残業を発生させているのです。


残業をいかに短くするかを考える

これまでの話だと、公立教員の働き方があまりにも過酷です。
残業代を支払ってもらえる手が無いのかと言えばそうではないのですが、裁判や損害賠償請求など、あまり現実的ではないため、逆転の発想で、ここでは残業をどう短くするかを考えてみましょう。


とにかく時短を意識する

教員の中には、時間をかければかけただけ生徒のためになると考えている方も少なくありません。
しかし、教員がどれだけ時間をかけたか、どれだけ苦労をしたかということは、残念ながら直接的に生徒に影響を与えません。

例えば課題のプリント作りですが、デザインなどを凝る必要はまったくありません。
これが小学校低学年などであれば、それこそ可愛いイラストなどが入っていると児童が喜び、やる気がアップする可能性もあります。
しかし、中学生・高校生にとって、課題のプリントはまさしく「ただの課題のプリント」でしかないのです。
過去の出題傾向などを参考にパッと作ってしまうのも、決して悪いことではありません。
もちろん、丸々引用してきてしまっては意味がありませんが、数値や単語を差し替えるだけでも、十分オリジナルの課題プリントになります。


ICTなどをフル活用する

ICTと表現するとわかりにくいかもしれませんが、要するに、タブレットなどの端末活用や、それこそWordやExcelなどのワープロソフトや表計算ソフトの活用なども、ICTのうちに含まれます。

学校現場では、手書きを前提とした資料もまだ多く存在しているのは事実です。
そのため、すべてを一度にICTに移行することは難しいかもしれません。

しかし、先ほどの課題プリントのような、教員が自作しなければいけないものは、ICTをどんどん使うことがおすすめです。

例えば簡単な表であれば、Wordで作るほうが効率的です。
何かの統計などを出す場合は、Excelが便利です。
電卓を手打ちするより、少し調べて関数を入力すれば、あらゆる計算が瞬時に済みます。

また、各家庭に配布する連絡プリントは、データ送信を利用することで、生徒全員分の印刷や配布にかかる時間も短縮でき、残業時間の削減に繋がるでしょう。 学校側のICTの取り組み事例として、令和2年2月文部科学省による「学校における働き方改革~取り組み方事例集~」の中から2つ紹介します。



取組事例:プロジェクトS(熊本市立長嶺中学校)

長嶺中学校では、教頭先生がプロジェクト中心メンバーとして、4つのチームを立ち上げ、PDCAサイクルならぬ、「CAPDサイクル」で持続可能な学校を目指して進めています。

校務データと各部フォルダの共有化を進めることで個人持ちをしないようにおこないました。また、校務支援システムアンケート機能やタブレット及び学校HP(保護者への連絡、行事情報を掲載等)を積極的に活用し、業務の効率化を進めています。



取組事例:ICTを活用した働き方改革(横浜市立左近山特別支援学校)

左近山特別支援学校では、ICTを活用した学校と家庭との連絡の効率化や、「校内グループウェア」の活用による教職員間の情報共有の効率化を図ることで、業務の負担軽減を図り、子供たちへのきめ細やかな対応へとつなげています。

例えば、学校と保護者との連絡では、以下のように「情報共有システム」を活用しています。

・保護者から学校への欠席・遅刻連絡をシステム活用し、電話対応の時間を縮減
・学校から保護者へのアンケートを電子アンケートに変更し、集計業務の軽減

また、教職員間の情報共有では、以下のように「校内グループウェア」を活用しています。

(例)
・掲示板、メッセージを活用して効率的な情報共有を実現し、朝の打ち合わせの時間を縮減
・職員会議の会議資料を一括して共有し、ペーパーレス化の会議を実現


時間をかけるべきもの、時短するものを取捨選択する

「とにかく時短を意識する」の項目でご紹介したことと少し重複する部分もありますが、課題プリントをはじめとした配布プリントは、時間をかけずにシンプルに仕上げてしまっても問題ないでしょう。

各家庭に配布するプリントは、必ず目を通してほしい部分だけ目立たせるなどの工夫をし、制作物にかける時間を短縮する意識を持つことが重要です。

ただし、例えば生徒が個人的に相談をしてきた場合などは、そこにしっかりと時間をかけてあげなければいけません。
勉強に関することかもしれませんし、それよりも重要なことかもしれません。
必要であれば空き教室など、生徒とゆっくり対話できる場所で、真摯に向き合う必要があります。

時間をかけなくて良いこと、時間をかけるべきこと、この双方に明確な区切りをつけ、時間をうまく使うことで、残業を減らすことができるはずです。


教員の働き方改革も進められている

ただ、残業をいくら短くしようと意識したとしても、学校現場では自分の都合ではどうにもならずに残業をしなければならない場面が多いのは事実です。しかし、教員に対する働き方改革も進められていることには違いありません。

これまで学校が果たしてきた役割を教員以外の職員や、学校外の機関にゆだねることで、教員の負担を軽減しようという動きが、国によって成されようとしています。

具体的には、登下校に関する対応や、校内清掃ななどを地域ボランティアが担当、調査・統計などへの回答は事務職員が担当、部活動は部活指導員が担当するなど、学校・教員でなければできない業務と、それ以外の業務をクリアにし、振り分けられるものは振り分けようという考え方です。

学習評価や成績処理、学校行事の準備・運営、進路相談などは引き続き教員の担当となりますが、サポートを得ることで業務負担を軽減することができます。

学校行事の準備・運営などは、事務職員と連携することで、教員一人あたりの負担を減らすことが可能になる見通しです。 進路相談なども、事務職員や外部人災との連携で、これまでよりも教員の負担や残業を軽減させようとする働き方改革が動き始めています。

※参考:中央教育審議会「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について (中間まとめ) 【概要】」
※参考:学校における働き方改革~取組事例集~


公立学校に不安が残るのであれば、私立学校を検討する手も

公立の教員を目指している方、現役公立教員の方でも、悲観する必要はありません。
教員の働き方改革は、少しずつではありますが、動き始めています。
しかし、それを待つばかりでは、環境はなかなか改善されないのも事実です。

より良い環境を求めるのであれば、私立学校へ目を向けてみるのも良いでしょう。
私立学校であれば、時間外勤務手当、いわゆる残業代が支払われます。
「教員人材センター」にご相談いただければ、あなたの希望する働き方にマッチした私立学校をご紹介することが可能です。

東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県の1都3県、300校の私立学校との繋がりがございますので、まずはどういった働き方をご希望かをお聞かせください。
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私立学校への就職・転職をご検討するのであれば、ぜひお気軽にご相談ください。


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