令和4年5月に改正教育職員免許法が成立し、令和4年7月1日から教員免許更新制度は解消となりました。これにより、教員免許の有効期限が撤廃されましたが、保有する免許の種類や有効期限の状況によっては、教員免許が失効になる場合があります。
本記事では、教員免許更新制の廃止の影響や、教員免許が失効した場合にどのようになるのかを解説します。
教員免許更新制の背景とは
教員免許更新制は、定期的な知識技能の講習を行うことで、教員に求められる資質能力の保持と、子どもや保護者が安心して教育を受けられることを目的に、平成21年4月に導入された制度です。
教員資格については、終身有効である国とそうではない国があり、日本においては昭和58年の自由民主党文教制度調査会による提言をきっかけに、無期限であった教員免許状に有効期限を付して更新研修を義務付けるなどの検討が始まりました。
また、児童・生徒の学力低下や教員の質の問題が指摘されるようになり、平成19年には教育再生会議が、不適格教員の排除を目的に教員免許を更新制にする制度導入が提言されます。
その後、平成21年4年から導入された教員免許更新制ですが、制度の目的は不適格教員排除から、教員の能力向上に差し替えられており、導入後の文部科学省も制度の目的は不適教員の排除ではないと主張してきました。
このようにして導入された教員免許更新制ですが、教員免許の更新には30時間以上の講習が必要であり、教員は夏休みなどの長期休暇を使用せざるを得ない他、約3万円の自己負担金を支払わなければなりません。
また、更新された免許には有効期限があり、資格取得から10年後の年度末を過ぎると、教員は改めて講習を受けなければなりませんでした。
このような制度設計は、教員を助けるものではなく、忙しい教員の負担を増加させる上、内容も実践的なものではないといった指摘が噴出するようになるのです。
教員免許更新制廃止の概要と施行日
教員免許更新制度をめぐっては、中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会と、初等中等教育分科会教員養成部会の合同会議が令和3年11月に開催され、そこで、教員免許更新制の発展的解消を目指すことが発表されます。
令和4年2月25日に、教員免許更新制の廃止に向けて、教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律案が閣議決定されました。その後、令和4年4年5月に改正教育職員免許法が成立し、令和4年7月1日から教員免許更新制度は解消となりました。
ただし、教員免許更新制度が廃止されるものの、文部科学省は2023年4月から新しい研修制度の導入を決めており、オンライン研修や研修後のテスト・レポート提出などが必要になります。
現状の免許状の有効期間(修了確認期限)
令和4年7月1日の改正教育職員免許法の施行前後で、免許状の有効期限の状況は大きく変化しました。
改正教育職員免許法の改正前では、交付されている教員の免許状は免許の交付時期によって有効期限の定め方が異なります。
状況によって有効期限の定め方が異なるのは、教員の免許状が旧免許状と新免許状に区別されるためです。
教員免許更新制が導入された平成21年4月1日以降に公布された教員免許は新免許状、平成21年3月31日以前に公布された教員免許は旧免許状となり、それぞれ有効期限が異なるわけです。
ここでは、教員免許更新制度が解消される前後での、免許状の有効期限について解説します。
旧免許状(平成21年3月31日以前に授与された免許状)
教員免許更新制度が解消される以前では、平成21年4月31日以前に授与された普通免許状や特別免許状を持っている場合、免許状に有効期限は定められていませんでした。
また、旧免許状を持つ場合に、平成21年4月1日以降に普通免許状や特別免許状を新たに授与された場合でも、有効期限は定められていません。
ただし、免許の更新講習の受講義務がある場合は、修了確認期限までに更新講習の修了確認を受けないと、免許状が失効しました。
免許の更新講習の受講義務があるのは、次の場合です。
- 現職教員(校長、副校長、教頭を含む。ただし、指導改善研修中の者を除く)
- 実習助手、寄宿舎指導員、学校栄養職員、養護職員
- 教育長、指導主事、社会教育主事、その他教育委員会において学校教育又は社会教育に関する指導等を行う者
- (3)に準ずる者として免許管理者が定める者
- 文部科学大臣が指定した専修学校の高等課程の教員
- 上記に掲げる者のほか、文部科学大臣が別に定める者
- 教員採用内定者
- 教育委員会や学校法人などが作成した臨時任用(または非常勤)教員リストに登載されている者
- 過去に教員として勤務した経験のある者
- 認定こども園で勤務する保育士
- 認可保育所で勤務する保育士
- 幼稚園を設置する者が設置する認可外保育施設で勤務している保育士
※出典:文部科学省.「教員免許更新制4.免許状更新講習の受講対象者」.
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/koushin/08051422/004.htm, (2022_08_24).
新免許状(平成21年4月1日以降に授与された免許状)
教員免許更新制度が解消される以前では、新免許状の有効期間は、所要資格を得てから10年後の年度末までとなっていました。
なお、所要資格を得るというのは、免許状の授与に必要な学位・単位を満たした状態のことです。
また、新免許状を保持している場合に、講習の受講対象者となるのは、旧免許状を持っている場合と同様に12のパターンに該当するケースでした。
令和4年7月1日以降の教員免許状の扱いについて
令和4年7月1日に改正教育職員免許法の施行に伴い、教員免許更新制は解消されました。
そのため、施行日時点で有効な教員免許状は、手続きなども必要なく有効期限のない免許状となります。
ただし、令和4年7月1日の前に有効期限を過ぎる免許状を保持する場合、現職教師か非現職教師かによって扱いが異なり、現職教員の場合は新免許状・旧免許状ともに失効に、非現職教員の場合は新免許状では失効、旧免許状では休眠の扱いとなります。
教員免許が「休眠」状態の人はどうなる?
旧免許状を持つ人のうち、有効な教員免許を必要とする職種に就かず、今後も付く予定がない場合、有効期限を過ぎても免許状は失効せず、休眠扱いになります。
なお、休眠扱いの免許状を持つ人のことをペーパーティーチャーと呼びます。
今回、教員免許更新制が廃止されたことにより、休眠状態も含めて施行日時点で有効な教員免許状は、手続き不要で有効期限のない免許状となるため、休眠状態の免許状が自動かつ無料で有効な免許状に回復することになるのです。
また、施行日前に有効期限が切れる免許状のうち、休眠扱いになるのは旧免許状保持者かつ非現職教師に限られ、それ以外のケースでは免許状は失効扱いとなります。
教員免許を「失効」した人はどうなる?
令和4年7月1日の手前で有効期限を迎える免許状を持つ場合、以下のケースに該当すれば免許状は失効扱いとなります。
- 現職教師で新免許状を持っている
- 現職教師で旧免許状を持っている
- 非現職教師で新免許状を持っている
失効した免許状は、各都道府県の教育委員会に再授与申請の手続きを行うことで、有効期限のない新たな免許状の授与が可能です。
そのため、改正教育職員免許法の改正前に有効期限が切れるからといって、教職を失うことはありません。
ただし、例外的なケースとして2000年の教育職員免許法改正に伴う経過措置によって授与されている免許状に限り、再授与されない場合があります。
今後の動きも注目しよう
今回は教員免許更新制の廃止による影響や、免許状が失効した場合について解説しました。
教員免許が廃止になることで、更新講習を受けることなく教員資格を保持することができます。ただし、免許状の種類や旧制度での有効期限などによって、状況が異なることから、自分の処遇がどうなるのか確認する必要があるでしょう。
また、教員免許含め、教員現場に関する制度への国の動きについては、引き続き注目していく必要がありそうです。
教員人材センター編集部
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