
教員を目指す方に知ってほしいキーワードなどをお伝えします。今回取り上げる内容は「インクルーシブ教育」です。
1. インクルーシブ教育とは
インクルーシブ教育とは、「子どもたちの多様性を尊重し、障害のある子どもが精神的にも、身体的にも最大限まで発達できること」、また、「社会に他の子どもと変わらず参加できること」を目指す教育です。一言でいうと「みんなが一緒に学ぶ」ことを目指す教育です。
大切なのは、それぞれの子どもたちが授業内容を理解し、「授業に参加している、ついていけている」という実感や達成感を持ちながら、「充実した時間を過ごせること」という点にあります。仮に障害のある子どもたちを通常学級に在籍させても、その子どもたちが授業を理解できず、孤立感を抱いてしまっては意味がありません。
2. インクルーシブ教育と混同しがちな教育・考え方
インクルーシブ教育と混同されやすい教育や考え方として、「インテグレーション教育」などがあります。
インテグレーション、日本語では「統合」という意味です。障害の有無を問わず同じ場所で教育を行う考え方と言えます。しかし「場の統合のみ」という意味合いが強いようです。例えば、同じ学校で通いますが、教室が違うなど区別されるケースです。
インクルーシブ教育は、場を統合するだけの教育ではありません。場を統合することには変わりありませんが、障害のある子どもも、障害のない子どもも、同じように授業についてこられるような教育を理念としています。
インテグレーション | インクルーシブ | |
主な焦点 | 場の統合 | 学びの統合 |
目的 | 同じ場所にいること | 同じように学ぶこと |
3. インクルーシブ教育のメリット・デメリット
どんな教育にも言えることですが、インクルーシブ教育にもメリットとデメリットがあります。
メリット
- 教員の立場からのメリット:
- 子どもたちの多様性に触れるため、教育スキルが身につきやすい。
- 療育の知識が身につく。
- 障害を持つ子どもたちが得られるメリット:
- 今まで受けられなかった教育が受けられる。
- 自分が生活する地域の学校に通える。
- 周囲の子どもたちが得られるメリット:
- 障害のある子と接することで、共生社会への理解を深められる。
※療育:心身に障害をもつ児童に対して、社会人として自立できるように医療と教育のバランスを保ちながら並行して進めること。
デメリット
- 教員の立場からのデメリット:
- 授業に遅延が発生する場合がある。
- 障害のある子どもへの合理的配慮をどこまで行うかを考えなければならない。
- 配慮した結果、業務が増える可能性がある。
- 障害のある子どもたちにとってのデメリット:
- 理解のない子どもによるいじめの被害などが心配される。
- 周囲の子どもたちにおけるデメリット:
- 障害のある子どもたちに合わせて、授業が遅れる場合がある。高校受験などを控えている場合は、このことを危惧する生徒もいるかもしれない。
4. 日本におけるインクルーシブ教育の広まり
デメリットは存在するものの、インクルーシブ教育は人間が公平に生きていくための重要な教育です。日本ではどのような広まりを見せているのでしょうか。
インクルーシブ教育は、1990年代からアメリカなどを中心に広まった教育理念であり、1994年の特別ニーズ教育に関するサラマンカ声明において、この教育理念を持つ学校の在り方が提起されました。
※サラマンカ声明:ユネスコ・スペイン政府共催で行われた「特別なニーズ教育に関する世界会議:アクセスと質」において採択された声明。サラマンカは会議が行われたスペインの都市名。
さらに2006年の国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」で、その考え方は広まりました。
※障害者の権利に関する条約:2006年の国連総会で採択された条約。教育については第24条に記載されている。日本は2014年に批准しました。
このような動きを背景に、文部科学省によって「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」が明示されました。
現在は、2015年に国連で採択されたSDGsの「だれ1人取り残さない」という基本的な考え、また4つ目のゴール「すべての人に包摂的(ほうせつてき)かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」から、インクルーシブ教育への意識は高くなっています。
インクルーシブを意識する都道府県は多く、一例ですが、千葉県や神奈川県などは、県のホームページに「インクルーシブ教育の推進について」や、「インクルーシブ教育システム研修会」などの情報が掲載されています。
現在「個別最適な学び」が教育の重要なキーワードになっています。その実現のためにはインクルーシブ教育の考えを押さえることは大切です。