
今回は、2025年実施(2026年度採用)教員採用試験の志願者数の状況をお伝えします。ここ数年、教員採用試験はまさに激動の時代を迎えています。試験日程の早期化・分散化、試験内容の削減、英語資格の優遇、大学3年生受験の拡大、さらには奨学金返済支援やSPI導入など、多岐にわたる変化が特徴的です。これらの施策が、実際の志願者数にどのような影響を与えているのでしょうか?
1. 2025年教採志願者数:全体的な傾向
今年の教員採用試験(2025年実施、2026年度採用)の全体的な傾向として、志願者数が増加した自治体はわずか17に留まり、多くの自治体で減少傾向が見られます。この中でも特に深刻なのが、小学校教員の志願者数です。少なくとも39の自治体で小学校の志願者数が減少しており、大半を占める状況です。中学校や高校では、増加している自治体と減少している自治体が混在しており、小学校ほどの顕著な減少は見られません。
<志願者数が増加した自治体TOP5>
厳しい状況下でも志願者数を大きく伸ばした自治体があります。増加数が大きかった上位5自治体はこちらです。
東京都: 598人増加
大阪府: 314人増加
大分県: 175人増加
茨城県: 143人増加
長崎県: 133人増加
これらの自治体には、明確な「増加要因」が挙げられています。
東京都は今年から奨学金返済支援制度をスタート。茨城県では筆記試験から「教職教養」が廃止されました。長崎県は、試験日を6月から5月に前倒ししたことで、九州で唯一5月に試験を行う自治体となり、併願のしやすさが志願者増につながった可能性が指摘されています。
<志願者数が減少した自治体TOP5>
一方で、志願者数の減少が大きかった自治体もあります。
千葉県・千葉市:-328人
愛知県:-313人
神奈川県:-270人
兵庫県:-229人
福島県:-228人
これらの自治体では、小学校、中学校、高校のどの区分においても志願者数が減少している点が特徴的です。
2. 試験日程の早期化は「万能薬」ではない?
教員採用試験の大きな変更点の一つに、一次試験日の早期化・分散化があります。島根県、山口県、長崎県などでは、従来の7月から5月に前倒しされました。
実際に早期化した自治体の志願者数を見てみると、
島根県(7月→5月)は86人増加
長崎県(6月→5月)は133人増加
と、志願者数が増加したケースもあります。
しかし、一方で同じく7月から5月に変更した山口県は79人減少しており、昨年同様5月実施の茨城県は増加したものの、高知県(5月31日実施)は96人減少、静岡県(5月10日実施)は100人減少と、早期化が必ずしも志願者増に繋がっているわけではないことが浮き彫りになりました。併願のしやすさというメリットはあるものの、全体的な志願者数の動向は、試験日程だけでなく、各自治体の魅力や募集状況など複合的な要因によって左右されていると考えられます。
3. 校種別に見る志願者数の実態
小学校は、多くの自治体(少なくとも39)で志願者数が減少傾向にあり、千葉県・千葉市で204人減、兵庫県で184人減、沖縄県で80人減など、深刻な減少が見られます。
中学校は、志願者数は増加と減少が混在しています(少なくとも28の自治体で減少)。東京都で292人増、神戸市で100人増と大きく増加した一方で、福島県で76人減、新潟県で155人減の地域も見られます。
高校は、中学校と同様に、増加と減少が混在する状況です(少なくとも25の自治体で減少)。茨城県で99人増、新潟県で155人増、福岡県で32人増が見られる一方、和歌山県で100人減、神奈川県で158人減といった地域もあります。
4. 「大学3年生受験」の拡大
近年注目されているのが「大学3年生受験」制度の拡大です。昨年(2024年実施)にはすでに40を超える自治体が導入しており、今年は岩手県、秋田県、宮崎県で新たに導入されます。
昨年も3年生受験を実施し、今年も実施している37自治体のデータを見ると、なんと32の自治体で3年生の志願者数が増加しています。
特に、茨城県は470人増、大阪府は464人増、愛知県は406人増、東京都は358人増、兵庫県は258人増と、大幅に増加しています。
これは、大学3年生受験制度が、志願者増に対して一定の成果を上げていることを示唆しており、将来の教員確保に向けた明るい材料と言えるでしょう。一方で、この増加は3年生枠によるものであり、一般的な受験生全体の減少傾向は続いている可能性も示唆されています。
まとめ:画一的対策の限界と今後の展望
今回の教員採用試験の動向を総括すると、昨年同様、小学校教員の志願者数が全国的に顕著に減少していることが最大の課題です。
試験日程の前倒しや分散化、試験科目の削減、大学3年生受験枠の拡大など、さまざまな施策が進められていますが、これらの画一的な対策だけでは十分な効果が得られにくいという現実も明らかになりました。志願者数の動向は、単一の要因ではなく、各自治体の魅力、職場環境、待遇、そして試験制度全体の複合的な要因によって左右されていると考えられます。