
公立学校と私立学校の教育内容の違いについて解説いたします。同じ「学校」という枠組みの中でも、さまざまな違いがございますので、注目していきましょう。
1. 取り組みの違いはある?
公立学校と私立学校では、具体的な教育の取り組みにおいて、かつては明確な違いが見られましたが、現代では、それぞれにしかできない取り組みは少なくなってきています。
例えば、グローバル教育を例に取ってみましょう。国際バカロレア(IB)認定校は、公立・私立の両方に存在します。近年では、イマージョン教育を行う公立学校も出てきました。ダブルディプロマは、現状では私立学校特有の取り組みと言えるかもしれません。理数系教育に力を入れている学校や、大学進学に特化した指導を行う学校も、公立・私立の両方に存在します。かつては私立学校の特徴であった中高一貫教育も、現在では公立学校にも広がっています。
このように、かつて私立学校の独自性と考えられていた取り組みが、公立学校にも取り入れられる傾向が見られます。ただし、これは公立学校全体、あるいは私立学校全体が同様の傾向にあるというわけではなく、特色ある取り組みを行う公立学校が増えてきた、と捉えるべきでしょう。
もちろん、私立学校ならではの特徴も存在します。例えば、附属学校です。いわゆるエスカレーター式で大学に進学できる制度は、私立学校特有のものです。そのため、附属学校では受験を意識せずに学べます。また、宗教に基づいた教育を行えるのも、私立学校ならではの特徴です。
教育の取り組み自体は、公立・私立それぞれの学校単位で特色がありますが、その背景にある考え方が異なることを理解しておくことが重要です。
公立学校の場合は、自治体全体の教育方針に基づき、「この分野はこの学校に担ってもらおう」というように、役割分担の考え方で教育施策が実行されます。一方、私立学校は、それぞれの学校が持つ建学の精神に基づき、自ら役割を決定します。これまで培ってきた伝統に加え、社会のニーズや教育の動向を踏まえ、独自に教育内容を更新していくという特徴があります。
新型コロナウイルス感染症のような急激な社会変化への対応にも、公立・私立で違いが見られました。コロナ禍におけるオンライン授業への移行では、以前からICT化を進めていた学校は比較的スムーズに対応できました。一方で、ICT環境の整備が遅れていた学校では、対応に遅れが見られました。ICT化にはソフト面とハード面の両方の整備が必要となりますが、学校単位で迅速に推進できる私立学校の方が、全体的に見て対応が早かったと言えるでしょう。
教育の変化への対応速度という点では、私立学校の方が比較的早い傾向にあるかもしれません。例えば、学習指導要領は10年ごとに改訂されますが、多くの公立学校はこれに従って教育内容を変化させていきます。しかし、私立学校は必要に応じて、2年後、3年後といった短い期間で教育内容を変化させることが可能です。これが、私立学校が「先進性がある」と言われる理由の一つかもしれません。
教員を目指す際には、学校選びの視点も変わってきます。現在の社会情勢や学校を取り巻く環境を把握することは公立・私立共通して重要ですが、公立学校を志望する場合は、自治体の教育行政を理解することが求められます。一方、私立学校を志望する場合は、各学校の建学の精神や教育理念を深く理解することが重要になります。
2. 授業時間の違い
公立学校と私立学校では、授業時間数にも違いが見られます。小・中・高等学校の授業時間数は、学校教育法施行規則などの法令で定められていますが、これはあくまで最低基準です。中学校を例に取ると、現在は1年~3年それぞれ1,015時間の合計3,045時間授業を行うことになっています。公立学校はこの基準に従っています。
一方、私立学校は、公立学校よりも授業時間数が多いのが一般的です。1,100時間を超える学校が多く、中には1,500時間を超える学校も存在します。これは、土曜日に授業があるかどうかなどが影響しています。
ここで、「現在は」と述べたように、以前の授業時間数は現在と異なっていました。授業時間数は、学習指導要領の改訂とともに変化することがあります。例えば、昭和43~45年(1968年~1970年)改訂の学習指導要領では、中学校の授業時間は3,535時間でした。その後、平成元年(1989年)には3,150時間、平成10・11年(1998・1999年)には2,940時間と減少しました。これは、公立学校で土曜休みが導入された時期、いわゆる「ゆとり教育」と言われた時期と重なります。その後、改訂を経て現在は3,045時間となっています。
公立学校では授業時間数が大きく変化する中で、多くの私立学校は授業時間数を維持していました。授業時間数は、当然教育内容に影響を与えます。学校で授業として扱う内容の量が変わるからです。授業時間数の多い少ないの是非はここでは議論しませんが、公立と私立の違いとして押さえておきたいポイントです。
3. 通学する子どもが違う
どのような児童・生徒が通っているかは、授業や学校生活全般に影響を与えます。公立学校と私立学校では、通う生徒の属性に違いが見られます。
例えば中学校では、公立中学校は学区制に基づき、地域によって通う学校が決まります。そのため、通う生徒はいわゆる地元の生徒となります。一方、私立中学校の場合は、学区に関係なく生徒が集まります。地元以外から通学する生徒も多く、中には中学校から電車通学をする生徒もいます。
高校の場合、公立高校も学区が広域になりますが、基本的にはその都道府県内に住んでいる生徒が通学します。一方、私立高校では、居住する都道府県を超えて通学することも珍しくありません。
そのため、公立学校の場合は、友達同士・知り合い同士で同じ学校に通う可能性が高いですが、私立学校ではそうではない場合が多いです。私立学校に進学すると、新しい人間関係を一から構築する必要が出てくることは、私立学校の特徴と言えるかもしれません。
4. 受験の影響
私立中学校では、「受験がある」ということも、学校運営や生徒の様子に大きな影響を与えています。まず、受験があることで、一定の学力層の生徒が入学することになります。また、受験をするということは、学校について調べたり、受験勉強をしたりすることになります。そのため、入学者とその保護者は、入学前から学校に対する期待を高めた状態になります。
高校の場合は公立高校にも受験がありますが、私立中学校の場合は特にこの傾向が強いと言えるでしょう。中学校や小学校では、より顕著にこの傾向が見られます。
また、中学高校問わず私立学校に当てはまりやすいこととして、第一志望ではない学校に入学する生徒もいるという点を理解しておく必要があります。受験をする以上、第一志望校だけでなく、併願校や滑り止め校なども検討します。当然のことながら、第一志望校に合格できない生徒もいます。そのような場合、第二志望以下の学校に入学することになります。そのため、私立学校の教員は、そのような生徒や保護者に対して「この学校に入学してよかった」と思ってもらえるように努める必要があります。
公立学校でも、近年増加傾向にある中高一貫校では、適性検査の結果によって入学が決まるため、第一志望でなかった生徒が入学するケースも見られます。高校受験では、一般的に公立高校は第一志望として受験する場合が多く、第二志望で公立高校に入るケースは比較的少ないと言えるでしょう。
5. まとめ
今回は、教育内容に関わるさまざまな側面から、公立学校と私立学校の違いについて解説いたしました。教育内容と一言で言っても、学校の役割や授業時間数、生徒の属性など、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。これから学校について調べる際には、これらの点を考慮に入れることで、より深く学校を理解できるでしょう。