セミナーレポート

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2018.11.26

2018年9月9日開催 ICT先端校に聴く!効果的なICT活用法!セミナー(広尾学園中学校高等学校)

平成30年9月9日(日)開催
教員人材センター セミナー

講師・学校紹介


金子 暁 先生
広尾学園中学校 高等学校 副校長

「広尾学園ICT活用の構図~教育活動とテクノロジー」

色々な学校改革をしてきた中で最近思うことは、「我々はどこまで行きたいのか、どこまで到達したいと思っているのか」それによって学校の成長の範囲が決まってくるということです。
もっと身近なところで考えると、「自分はどこまで行きたいと思っているのか」によって自分の成長の幅も決まってくるのではないかと思います。
今の日本の学校におけるICT教育については、私は少し妙な気持ちで見ているところがあります。本来、学校教育を進めていく原点は教員の「何かをする」という情熱や衝動であって、テクノロジーではありません。そこにアクティブラーニングという言葉を入れても、グローバル教育という言葉を入れても同じです。それが学校教育を決定する核心にはなりません。あくまでそれらは手法に過ぎません。
ですが、テクノロジーをベースにしない学校は、よほど特殊な教育をしている学校でない限り未来はないと思います。
従来の学習というものの考え方は本当に正しかったのか、本当に日本の学校にあるべき学習とは何かを考えていかなければなりません。

本校の全校生徒はかつて1800人程度いました。その後半減し、10年後には3分の1まで減りました。どんなに「こういうことをやりたい」と思っても、数がないところにおいては意味を持ちません。それが1番悲しい状況でした。
本校は女子校を共学校にすることで何とか再生してきました。
それまで積み上げてきた伝統や名声を一度は失ってしまいましたが、幸いにも評価を頂くことになりました。
四谷大塚の中学入試の模試のデータでは、私達がスタートしたのは偏差値35以下のところです。偏差値35以下の学校はたくさんあるのですが、倍率が出ませんので表にも出ません。私達もそこからのスタートでしたが、これも幸運なことに毎年上がり続けています。 今までの学校の偏差値の序列は、どれだけ東京大学に入れたかという点で決まってきたと言えます。本校は、東京大学への進学実績が上がる前に偏差値が上がってきた珍しい例だと思います。進学実績では本校よりも上の学校が、偏差値では本校より下に位置するという不思議な現象が起こっています。これは受験生や、保護者の意識が変わってきたためと私達は捉えています。
ただし、伸び続けていくためにある程度の進学実績は必要です。

生徒が自分の情報機器を自分のものとして学校生活を送っています。Wi-Fiで校内全ての場所からインターネットに接続することが出来ます。この体制をいかにして早く作り上げるかが、日本の学校におけるミッションだと思います。
学校全体で使っているのは、Googleの無料サービスです。学校として契約していますので、Googleのメール、ドキュメント、スプレッドシートなどで情報共有や共同作業が一斉にできてしまいます。これが本校における根本となる環境です。
見学に来て頂く方に共通していること、考え方を変えてほしいと思うことが、授業のことしか頭に入っていないという点です。もちろん授業も見て頂きますが、核心は授業だけに留まらないと私は考えています。
学校の中では様々な教育活動が行われています。そういったもののベースにICTがあるという考え方をして頂きたいのです。授業では、「こうしなければいけない」という縛りは一切ありません。
今までの日本の中学校・高等学校では不可能だとされてきたような教育活動を作りたい。そこまで到達して初めて、私達の学校のICT環境の意味が出てくると思っています。

少しICTそのものからは離れてしまいますが、私達の教育に対する考え方として、「キャリア教育」というものがあります。中学1年生の時から、生徒達にはどんどん「本物」をぶつけていきます。高校2年生や、3年生から経験しても遅いです。
例えば、「スーパーアカデミア」というものがあります。全国から研究者の方に集まって頂き、生徒達は中学1年生の段階から自分達の興味の持てる講座を選択します。
理解できていなくても関係ありません。大切なことは本物と出会うということです。色んな出会いがあって、色んなチャンスがあって、その体験がいつか何かで結びつくかもしれません。それは卒業後かもしれないし、一生を通じてのことかもしれません。ですが、その出会いとチャンスを与えるのは学校であると考えています。

本校には本科と医進・サイエンス、インターナショナルコースの3つのコースがあります。その中のインターと医進・サイエンスはクラスが限られていて、本科が1番生徒が多いコースになります。インターと医進・サイエンスはクラス数が少ない分、色んなチャレンジができます。動きが速いんですね。そこで挙げた成果を本科に適用していくという方法をとっています。
医進・サイエンスの根幹部分は「研究をすること」で、まだ論文になっていない、研究者によって明らかにされていない分野に限ってテーマ選択が認められます。
医進サイエンスの生徒は、授業とは別の時間を使って研究活動をしています。彼らはほとんどが部活に所属し、学校の勉強もします。時間的にいちいち集まることができません。なので、瞬時に情報共有できるサービスや情報機器が必要だった訳です。彼らからそうした機器をとってしまったら、彼らの活動は崩壊してしまいます。
医進・サイエンスという名前がついてはいますが、医学部受験対策コースではありません。しかし、何らかの研究をしてきた経験は医学分野に対しても応用が利くものです。

ICTに関する話に戻りましょう。
本校にはICTルームという部屋があります。何をする部屋かと言われても、私にも説明できません。生徒から「3Dプリンターが欲しい」という話があって、教室を確保して1台だけ与えたんですね。その後、彼らが企業などからもらってきた3Dプリンターが入ってきて、今は7台の3Dプリンターと大型のレーザーカッターが1台入っています。
本校で情報機器を一斉に入れることになった際に大きく貢献してくれた生徒が、こんなことを言っています。「先生方は多忙なので、ずっとつきっきりではいてくれない。だから、自分たちが率先して動いた方が早い」。実際そうなんです。ICTや情報機器が揃ってきた時に、こうした生徒は必ずクラスや学年に何人も出てくるはずです。今までは埋もれていた生徒が活躍できる場になっていくのです。恐らく本校では、教員に頼らない、生徒にお願いするということをやってきたために、こうしたことがスムーズに進んだのだと思います。

今は海外大学の講義がどんどん公開されていますが、残念ながら日本からのアクセスは非常に少ないそうです。原因は英語にあります。 この講義動画に、日本語訳をつけて公開すれば多くの人がもっと見るのではないかということで、本校のインターナショナルコースの生徒7人がボランティアをスタートさせてくれました。今は55人の生徒達がそれぞれチームを組んで、情報機器を使って翻訳を完成させています。 私達は最初、この翻訳はインターの生徒だからできるものだと思っていましたが、日本で育って日本で学んできた生徒達が、サイエンスの講義を翻訳したいとチームを組んでくれて、翻訳をどんどん進めているという状況です。今は本科の生徒も加わってこの活動に取り組んでいます。

かつて日本中の学校で「文武両道」が叫ばれていて、とても価値があることだと言われていました。私もその価値観を信じていましたし、それしか考えようがありませんでした。 ですが、それは考えてみればものすごく狭い枠だったと思います。 これから先の生徒の世代は、その枠の中に嵌めてしまったら恐らく成果は上がらないし、おかしくなってしまいます。 もちろん勉強も部活も大事ですが、君達の世界はそこだけではないという、環境やチャンスやきっかけを、学校はこれから考えていくべきです。実際、生徒達は今そういう動きを始めています。そして、私達の時代とは圧倒的に違う価値観があります。 私達の時代というのは、「自己利益」です。「いかにして自分の利益をあげるか」ということでした。ですが、彼らはそうではありません。彼らは「共有」や「貢献」するということがついてくると、とてもやる気になるのです。そういう世代に入っているのだという風に考えていくべきだと思います。 これからの日本の学校は生徒たちのモチベーションを上げられる学校か、上げられない学校かに分かれていくと思います。上げられない学校はどんどん衰退していくと思います。上げられる学校だけが伸びていきます。そして、そういった環境を作ろうと思った時に、テクノロジーは絶対に必要なものであると思います。
広尾学園中学校 高等学校 HP