セミナーレポート

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2011.09.23

私立各校の採用責任者に聴く 採用にあたって重視するポイントはここだ!

平成24年9月23日(日)開催
教員人材センター キャリアビスタセミナー

講師・学校紹介

明星中学高等学校
教頭 飯島 崇史 先生(以下「飯島先生(明星)」)

幼稚園から大学院までを抱えている総合法人で、府中市にある本校は、中高一貫校として「明星中学高等学校」と名乗るようにしています。

来年90周年を迎え、以前は60%程が明星大学へ進学しておりましたが、ここ数年は他大学への進学校として認知されつつあります。

下北沢成徳高等学校
教頭 平野 昌子 先生(以下「平野先生(下北沢成徳)」)

本校は世田谷区、下北沢の駅近くにあります。1927年、昭和2年4月に開校し、85年の歴史ある女子校です。高校単独の学校であるため、進学前提の学習指導をしています。「社会で活躍する女性を」という創立理念を掲げ、今は「社会で」というよりも、「世界で」活躍する女性を育成するため、英語教育を中心とした国際理解教育に力を入れております。

自修館中等教育学校
教頭 小河 亨 先生(以下「小河先生(自修館)」)

学校法人向上学園の中に学校が2つあります。1つは高校のみの向上高等学校、そして本校、自修館中等教育学校という2つとなります。向上高校の方は今年102年目ですが、本校は今年で14年目、教員の平均年齢が36.6歳という、非常に若い教員集団の学校です。男女共学校で、神奈川県の伊勢原市、小田急線愛甲石田駅で降りて20分くらいの場所です。

パネルトーク開始
― 書類・履歴書の見るポイントを教えてください。

平野先生(下北沢成徳)

履歴書は肉筆を見るために「自筆で」と書き添えています。「美しい文字=いい」というわけではなく、とても美しいペン習字のような字あっても、内容が正確でなかったり、求めている形で書かれていなかったりするケースもあります。とにかく「丁寧であること」を判断のポイントとしています。

内容的には本校の情報をある程度事前に調べているかどうか、さらに受験指導が可能かどうか学歴なども見ています。「どこの大学がいい」ではなく、「大学受験の経験」を重視しています。また、女子校出身者という方も歓迎しています。

自己紹介書では単に「何をやってきた」だけではなく、「教師になるためにどういったことに取り組んできたか」が書かれていることを評価します。

他にも封書の書き方等、一般的なマナーも注視しています。本校では書類の宛先を「事務室宛」と書いておりますが、そのまま「事務室宛」と書かれて届くこともあります。

小河先生(自修館)

書類等につきましては、まずは「丁寧かどうか」です。「上手いかどうか」ではなく、「一生懸命書こうとしたかどうか」です。

また、志望動機が「前向きかどうか」です。ご自分の経験や体験のみを書き連ねる方もいますが、それでは目に留まりません。

筆記試験については、センター試験レベルの問題を課して、6割ぐらいを1つのラインにしています。受験生を指導する上での知識は不可欠と思っております。

飯島先生(明星)

文字数や丁寧さ等で熱意を見ます。「どんな教育をしたいか」をA4の1枚に書いて頂いていますが、一般的にA4というと文字サイズ10.5ポイント・横40字・50行が適切かと思いますが、12ポイントや、ひどい時は14ポイントで字数を稼ぐ人もいます。

また、最低限のビジネスマナーも見ており、履歴書の写真がノーネクタイ・ノージャケット、教育の現場にふさわしくない髪形の方はチェックをします。

もう1つ、「採用試験を受けているかどうか」を重要視しており、採用説明会の時に書いてもらいます。これは教師になりたいという強い熱意の現われだと思いますので、私学適正検査や公立学校を差し支えのない範囲で書いていただいています。

筆記試験は本校でもセンターレベルの試験を課します。社会科と理科に関しては、中学生を教える際は全分野になりますので専門外の分野も受けていただきます。専門外分野試験は高校入試レベルです。

また近年は公立よりも質の高い先生を採用するために教職の問題も課しています。主に論文でチームワークを見たり、教職の研究をどれだけ勉強していたかを見る問題です。

―― 続いて面接につきまして、どういう形式で、どういった観点で応募者の方を見ているのか等をお話願います。

飯島先生(明星)

本校の面接は模擬授業と同日で行い、模擬授業の内容も聞きます。授業は1回で完結するものではなく、例えば中3の教材であれば、中2の内容が頭に入っているか、高1でつなげたいことが頭に入っているかという「教科の系統性」を重要視します。

系統性を見ることは模擬授業ではなかなか難しいので、面接時に「今日のここの板書はどうしてこのようにしたのですか?」というような形で確認します。

面接は候補者1人に対して3人、時間はおよそ20分くらいです。また、「なぜ本校か」ということも必ず聞くのですが、「本校の建学の精神」を聞くと、答えられない方が多いです。本校の特色も掴まずに面接を受けられていると、仕事の1つとして本校を受けに来られていると思います。やはり本校で働きたい、私学の教員として働きたいという熱意が欲しいわけで、「なぜ本校なのか」「建学の精神に照らしてどんな授業をしたいのか」ということも、本校との関係の中での「系統性」に至るわけです。その2点を非常に重要視しております。

平野先生(下北沢成徳)

本校の面接は1回で、管理職と教科主任、またはその教科に関わる教員が加わります。提出書類の内容や大学時代に取り組んだこと、特に専門教科についてはかなり掘り下げて伺うこともあります。

また、教員以外の就業経験をお持ちの方にはお仕事の中で取り組まれたことや、「なぜ今ここで教員なのか」「どんなことを頑張ってきたのか」をお伺いしています。

女子校ですので、特に男性には、「女子校で教えることについてどう思うか」「どんなことに気をつけたいと思うか」ということを確認しています。

表情や話し方だけではなく、「清潔感のある服装かどうか」もチェックします。特に女子の生徒は大変敏感です。タバコを吸われる方もいらっしゃると思いますが、身だしなみやにおいなどに気をつけて欲しいなと思います。

小河先生(自修館)
本校の面接は1回で、管理職と教務主任と教科主任5名で面接を行います。これまでの経験や、卒論のテーマや要旨も必ず聞いております。

次に、「本校のことをどれだけ知っているか」ということをお聞きします。ご自分をアピールする場ではありますが、どれだけ相手のことを知ろうとしているのかという部分も見ます。

「なぜ私学なのか」を必ず聞きます。また全体を通して、誠実な方かどうかを見ます。「この人はちゃんと子供たちと向き合ってくれるのか」という点です。「生徒1人を預かるということがどういうことなのか」を強烈に自覚してもらうことが、これから私学を導いていく上で1つのポイントとなりますので、そのようなことも聞いております。

最後にバイタリティがあるかどうかです。教員の仕事は多岐に渡りますが、やったこと無いことをなんとかしようと思う方と一緒にお仕事をしたいです。

NGとなるポイントは、まず「目が合わない方」はご遠慮いただいております。目が合っても目の表情に「元気がない」「熱さがない」とかいう方も同様です。「聞かれたことにちゃんと答えない」「自分の伝えたいことを一方的に話す」という方も困ります。

―― 次に、面接とも密接に関わりますが模擬授業についてポイントをお話願います。

飯島先生(明星)

やはり新卒の方や現場経験がない方と現場経験がある方とでは、当然見るポイントというのが違います。現場経験がある方は先ほど申しました「系統性」をよりシビアに見ています。模擬授業で数Ⅲの教材を出した場合、中学での位置づけが分かっているかなどです。

また、男女の違いもそうですが、対象ごとの視点や言葉の選び方大事です。本校では指導案の提出はいただかないですが、時間配分は当然見させてもらいます。与えられた教材の中でバランス良くできているかどうかが本校での1つの見方です。

模擬授業では教科の先生方15人くらいで見ます。その際に、目が合うかどうかは実に大事なポイントです。ずっと黒板の方を見て話していたり、うつむき加減で話すなどはマイナスになります。もちろん板書の大小や筆順なども見ており、見づらい色のチョークを多用していないかなど、ちょっと本を読めば書いてあるような細かい教育技術も含めて「板書」と「発声」、それから「目線」などを見るようにしています。

また、一方通行の教授型では困ります。常に生徒と相互通行の授業を心がけているかどうかもポイントです。

最後に、一番大事なことが「授業のイメージができているかどうか」です。ポイントだけ一方的に話すのではなく、「この話は、今は難しいと思うけど、分かっているよね?」というように子供たちと相互につながろうとしている気持ちがあるかどうか、そしてそれを子供たちが「難しい」と感じているか、「簡単」と感じているかというイメージがあるかどうかが非常に大事です。

その観点から、「基本的な板書等の教育テクニック」「相互通行であるかどうか」「授業内容のイメージがあるかどうか」の3点を本校では見させていただいています。

小河先生(自修館)

本校ではまず模擬授業の単元を1週間くらい前には提示しています。その際に、「単元何時間分の何時間目です」とか、「何年生を対象にこの教材を使ってください」ということを提示します。その他に必要に応じて「補足プリント」などをご用意いただき、教案も提出してもらいます。教案でまとめていただいた内、模擬授業では展開部分をだいたい20~30分でやってもらいます。

見るポイントは、まずその方が教壇でどれだけ雰囲気があるかをというところを重視しています。

続いて、授業展開については「スピード感」があるかどうかです。最近の子供たちは遅いと飽きてしまうので、スピード感がどれだけあるのかは重要です。

子供たちの将来に関わる仕事なので、模擬授業でもただ勉強を教えるのではなく、それが子供たちの将来にどうつながるかという視点が入っていないといけません。「伝える技術」自体は今後上達すると思いますが、「その時点での伝える技術」というのも非常に大切なことだと思います。子供たちを相手にする上で、「どういう言葉を使うか」「どういう表情で話をするか」も非常に重要です。

平野先生(下北沢成徳)

私どもが模擬授業をお願いする場合は、やはり事前に箇所をお示しして、展開部分の20~30分程度が中心になります。声や表情は慣れによって変わりますが、なかなか変えられないのは「説明の仕方」です。「どう構成して何を一番伝えたいか」「どう組み立てれば一番伝わりやすいか」を意識した準備が必要です。当然メリハリやスピード感も重要です。構成力と説明の仕方は強調したいところですね。要点がしっかりと伝わる授業は好ましく見ております。

また、「生徒を見ているかどうか」が重要で、生徒を見ずに手元の資料と黒板だけを見ているというのは、もうその段階でダメです。

やはり先生も視線を合わせて分かっているかどうかを掴みながら展開することが必要です。生徒役を巻き込んだり、教材に不足を感じたらご自分で準備をしたりと、工夫をしようという意欲を見させていただいています。

― 最後に各校の求める人材像及び教員を目指す方へのメッセージをお願いします。

飯島先生(明星)

実りのあるお話になればと思いますが、本校の2人の先生をご紹介します。1人は非常勤の方で、50数歳で初めて教壇に立たれた方です。民間企業にいた方で、年齢的にどうしようかと悩みましたが、非常勤で教壇に立たれています。授業を非常に熱くされていて、他の先生の授業も積極的に見学するなど、私から見ても非常にかっこいい方だと思います。

「これで終わり」ということがないのが先生の仕事の面白いところですので、常にどん欲に自分を変えていく姿勢があると非常に面白いと思います。

もう1人の方は新卒で、初めての教壇に立っている方です。実は模擬授業での評価は決して高くはなく、最後に採用を判断しました。今も授業はあまり上手くはないですが、すごく人間的な魅力を感じる方です。授業の後、チョークで真っ白になったズボンを見ると、微笑ましくなります。今現在はどうであれ、これから一生子供たちや授業と格闘していくのだろうなぁっていうものを感じます。よい後輩から、私も「初心」を忘れないようにと心がけています。

本当に、日本という1つの国の中で教育が果たす役割は大きいと思っています。特に公立にできないことを私立はやっていかなければいけないと思いますので、「私立の学校で働きたい」「ここで自分の人生を賭けてみたい」という方が必要です。そういう方に巡り会えれば嬉しいです。教え子にも先生になりたいという子たちがいますが、常々言うのは、「とにかくアンテナを張っておくこと」です。採用セミナーでも、試験でも、とにかく受けに行けば様々なきっかけとなる「何か」を得ることがあると思います。

教育の現場には時事を含め様々な問題もありますので、気持ちを一つにして、この難しい時代をさらにいい時代にしていければと思います。ぜひ皆さんもそれぞれの現場で頑張っていただければと思います。

平野先生(下北沢成徳)

私がお伝えしたいことは、これは教員に限らないことですが、「向上心のある人」であってほしい、「常に学び続ける人であってほしい」ということです。教育現場では常に「生徒のために何ができるのか」を考える人であってほしいと思います。

私学では授業だけではなく、生徒募集も全教職員で取り組みます。ですから、学校では「教える」ということだけではなく、社会に目を向けて「学校が何をしていかなければならないのか」、そして私学として経営ということもあるため、そのために「自分たちは何をしなければいけないのか」という面も考え続ける必要があります。

もう1つ、女性としてお伝えしたいことがあります。女性にはどこかで出産や育児の時期があると思います。私は専任で採用され、ある程度保証がある中、2人の娘を育てながらこの仕事をしてきました。女性にはどこかで中断しなければいけない時期があります。ですが教科の指導という点では、いつでも復帰できるものだと思いますので、そういう時が来たとしても、何年後かにはきちんと復帰することを意識して勉強を続けてほしいです。また、子育てや育児で見えてくることもあると思いますので、プラスに考えながら、前向きに臨んでいただきたいです。

本校でも産休・育休を経て現場復帰する専任教員がおります。皆それぞれ限られた時間を精一杯頑張って、家庭と両立をさせる努力をしています。また、一旦お辞めになって、もう一度復帰して頑張っていらっしゃる方もいます。ですから女性にとって、復帰のチャンスもあるのが「教員」という仕事ではないかと思います。諦めないで、全てが自分の栄養になると思っていただくのが良いかと思います。ぜひ、女性の皆さん頑張ってください。

小河先生(自修館)

我々が若い頃に教わった先生方から、教員は「奉職」するものだというお話をよく聞かされました。時代の変化もあると思いますが、最近では教員というのは「仕事」になっているという感じがあります。大人から見ると、「専任」「非常勤」「常勤」と分かれていますが、子供から見たら常勤も非常勤も専任も同じ「先生」です。私学に限らず、生徒や保護者からの視点をどれだけ持てるかが大切です。

本校の「寄り添う教育」という方針を持ちながら、「もし自分の子供だったら」という視点が常に頭にあれば解決できない問題はないと思います。

最初からいきなり「いい先生」にはなれません。私自身、今19年目でも毎日「いい先生になりたい」と思っています。そう思い続けることができる人が教員になれるのではないでしょうか。

我々の仕事はすぐ何か目に見える結果が出ることってほとんどありません。20年30年先にならないと、「自分がやったことで良かったんだ」「もう少しこうしておけば良かったんだ」というものは見えません。反省は日々しているのですが、「良かった」と思えるにはそれくらいの時間がかかる仕事だという自覚は必要だと思います。

最後に、「自分を変えていく」という意欲を持つこと、「生徒からも学んでいこう」という気持ちを持ち続けてもらいたいと思います。

まず失敗を恐れずに物事にチャレンジをして、何か失敗をしてしまってもその後取り返しのつくこともたくさんありますので、是非いろいろなことにチャレンジをして頑張っていただきたいと思います。

編集後記

当日はより多くのお話がありましたが、紙面の都合上、割愛させて頂きました。ご了承下さい。

今回のセミナーを通じて感じたことは、各学校で「なで私たちの学校を選んだのか」が明確であることが大切だということです。首都圏には多くの私学があります。その中から「なぜその学校を応募したのか」をもう一度考えてみてもいいかもしれません。

このレポートが皆さんの採用活動のご参考になれば幸いです。

田坂