セミナーレポート

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2018.09.27

2018年7月29日開催 元公立校長(現私立校長)に聴く「私立と公立の違い」セミナー

平成30年7月29日(日)PM開催
教員人材センター セミナー

講師・学校紹介


アレセイア湘南中学校 アレセイア湘南高等学校 武部公也先生(以下、武部先生)
私は茅ヶ崎の出身で、上智大学文学部を卒業した後に、神奈川県の教員として地元・茅ヶ崎の公立中学校に奉職しました。5年間は地元で働きましたが、その後在外教育施設の方に勤めたいと思い、バンコクの日本人学校で勤務しました。同時に、タイ国立タマサート大学とチュラロンコン大学でも授業を持たせて頂きました。
専門は社会科で、専攻にしているのは教育哲学ですが、帰国後はJICAの月刊誌の編集をしたり、開発教育の教材を作成したり、様々な外部の仕事もしながら教員をしていました。特に、「総合的な学習の時間」が創設される以前に、体験を重視した総合的な学習を開発しました。恐らく神奈川県の多くの学校では、私が開発したそのモデルを土台にしたものが今も行われていると思います。
公立を定年退職した後は、同年の4月1日に現在の学校に移りました。
本校は恐らく東京都内ではあまり知られていませんが、茅ヶ崎と辻堂のちょうど真ん中にある、キリスト教主義の学校です。創立者は賀川豊彦と言います。ノーベル文学賞、平和賞に何度もノミネートされながら、残念なことに受賞には至りませんでしたが、現在でもアメリカやヨーロッパではかなりの評価を受けています。その先生が、世界平和を作る真の人を育てるための学園というものを昭和21年に茅ヶ崎の地に創られました。女子校としてスタートしましたが、18年前から共学に変わっています。中学校は2クラス、高校は8~9クラスで運営しています。
特に、最近では、オールイングリッシュで行う「国際英語塾」というアフタースクールも評価されています。
私がこの学校に呼ばれた1番大きな理由は、「グローバル教育カリキュラムを作る」ということで、現在、幼稚園から高校まで一貫したグローバル教育カリキュラムを行っています。


アレセイア湘南中学校 アレセイア湘南高等学校 HP

日本体育大学柏高等学校 氷海正行先生(以下 氷海先生)
私は、小学校から大学までずっと東京でした。就職は千葉県で、それからずっと千葉県で教員をしています。最後は八千代高校の校長で終わりました。その後、縁あって日本体育大学柏高校に移りました。校名が3年前に変わっているので、柏日体と言った方が分かりやすいかもしれません。1年間見習いをした後、校長になって今年で2年目になります。
大学は日本体育大学の出身です。ハンドボールという種目をやっていまして、昭和47年のミュンヘンオリンピックに日本代表として参加させて頂きました。それから、文部科学省(当時文部省)の特別教科活動として、今よりひとつ前の学習指導要領の作成協力委員をやらせて頂きました。その後、当時の橋本総理大臣が立ち上げた「次代を担う青少年について考える有識者会議」にも文部省からの指名を受けて参加しました。全ての省庁の代表を呼んで、日本の青少年を健全に育成するためにはどうしたら良いか、各省庁で考えるように指示を出していた会議です。最近では「民法成年年齢部会」にも参加していました。
本校は、昭和35年に学校法人日本体育会(現日本体育大学)が千葉県柏市の要請で創設した学校です。元は柏日体高等学校という名前でしたが、平成24年に現在の校名に変更しています。
「健康と信用は最高の宝」を建学の精神とし、スポーツ環境の充実だけでなく、ICT環境の整備や、近隣の塾と提携して学力向上にも力を入れています。
本日は「私立と公立の違い」ということで、私の経験が少しでも皆様の参考になればと思います。


日本体育大学柏高等学校 HP

=パネルトーク開始=
― 公立から私立に移ってまず感じたのは人事の違い


武部先生
公立の校長をしていた時に毎年困ったのが、3月31日にそれまでのチームを解散し、4月1日からは3分の1くらい新しいメンバーを入れた、新しいチームでやっていかなければならなかったことです。特に、私自身は生徒指導の困難な学校ばかりを経験してきたので、人事の異動も激しく固定的なメンバーではスタートできませんでした。
私立に移って分かったことは、基本的には同じメンバーが大多数を占めているということです。そのため、学校を運営する上での大きな摩擦はありません。
ただ、私自身は激しい変革の中にずっと身を置いていたので、そういった変革をしていこうという部分は弱いのかな、と感じました。下手をすると「例年通り」ということになってしまう等、安定はしていますが、正直に言うと、外から入ってきた時は少し停滞しているように思いました。
また、人事評価などのシステムがきちんと出来ておらず、学校評価も出来ていないという部分もあったので、私立にも課題があると感じました。
一番気になったのは、人間関係が固定化しているため、ベテランの先生と若手の先生のギャップが見えるようで見えないという点です。何となくもやもやとしながらも、表面的にはソフトに進んでいく、という印象を受けました。 公立では4~5月は意見交換等をしてかなりぶつかった記憶がありますが、私学に移った時にはそのような穏やかなスタートでした。

氷海先生
私立と公立の教員としての一番の違いは、「公務員か公務員でないか」です。労働基準法で動くのか、教育公務員特例法で動くのか。
経営に関して言えば、公立の場合は人事とお金は配給制です。それを受けて、校長が学校経営をします。対して、私学はお金も人材も全て自前です。
また、私学には人事異動がほとんどありません。一方、公立の場合は異動があります。そのため人間関係作りに大きな違いがあります。
更に、公立には憲法で定められているため宗教色がありません。しかし、私立の場合にはキリスト教や仏教を中心とした考え方もあります。
私学では生徒募集がひとつの大きな使命となりますので、学校経営の中にその価値観が入ってきます。
これは本校の例になりますが、59年の歴史の中で紆余曲折あって、成績が下がった時期があります。現在は上がってきているのですが、成績が下がった時期の教員と、上がっている時期の教員との間にあるギャップを埋めるのが大変です。生徒指導が大変な時期から進学指導を中心とする時期への変化に対して、意識を切り替えるのは大変だと思います。
それから、私学は建学の精神に基づいていますので、そこをきちんと理解することが大切です。
皆さんが「教員になる」と思った時、まずは公立を受けるのではないでしょうか。公立の採用試験は過去問も出ていますし、資料もたくさんありますが私立はそうではありません。
私は船橋市の教育委員会にいたこともありますが、公立と私立とでは求める人材も違います。公務員か、会社員かの違いだと思って頂ければイメージしやすいかと思います。自分がどちらに向いているのかという意識も必要でしょう。
 

― 通学する生徒の雰囲気も異なる


武部先生
公立の高校には、1つの中学校から2~30人の生徒がまとまって入学してきます。そのため、過去の小学校や中学校時代の人間関係を引きずった状態でスタートするので、なかなか精神的にリセットが出来ないということがあります。
一方で私立は1つの中学から多い場合で5~6人、少ない場合で1~2人の入学者のため、非常にフレンドリーです。スタート時の心細さや緊張感はあるものの、過去を引きずらずにスタート出来るのだと思います。

氷海先生
公立と私立の生徒の違いというのは、まず入試の違いです。私立高校には単願と併願がありますが、公立高校は単願だけです。千葉県内では一部のトップ校は別ですが、本校含めほとんどの私学は併願をやっています。併願というのは、まず公立を受けて、そこに落ちたら私立に来るというものです。そういった違いがあります。
都道府県によって変わるかと思いますが、千葉県では、公立に受かった場合には絶対に公立に行かなければならないという誓約書を交わします。そのため、併願で私立に入学する生徒は必ず公立を落ちて入ってくるということになります。
併願で入学した生徒は少なからず心に傷を負って入ってきます。そういった子達が、「私立に来て良かった」と思えるような努力を私達はしています。
もう1点は、生徒指導の違いです。公立は少し緩いのに対し、私立は厳しいです。私立には競争原理が働くので、きめ細かい指導をして地域の信頼を得ていかなければなりません。それは生徒達も覚悟している点だと思います。
 

― 教員を目指す方へ


武部先生
今、私も含め教員にとって一番足りないものは、「教えること」ではなく「自分が学ぶこと」だと思っています。教員一人ひとりが学ばなければ、学校は良くなりません。
教育の中で大事にしたいことは、自分の心も大切ですが、相手の心はもっと大切だという柔らかさを持つことです。そういった方に、ぜひ生徒と一緒に学んでほしいと思います。
本校はグローバル教育で評価されていますが、英語を話せることがグローバルなのではありません。英語を話せなくても、グローバルな精神を持つことはできます。そこを履き違えないような学校作りをしたいと思っています。先生方もぜひ、自分の信じたことに自信を持って挑戦してください。その根底にあるのは「学ぶこと」です。

氷海先生
私の原点は「人間教育」です。私は22歳の時にオリンピックに行きました。その時に、選手村の食堂で世界中の国の人達と一緒に食事する機会があったのですが、そこで大きなカルチャーショックを受けました。食堂に来る時の様子だけでも、国によって全く違うのです。
私は当時既に教員で、日本の学校教育とは何かと考えた時に、人間教育よりも企業戦士を作るものなのではないかと疑問を持ちました。しかし、よく考えると国によってその国ごとの特徴があるので、それが教育なのかな、と思うようになっています。
現在、本校には様々な国から来た生徒が通っています。国が違えば文化も違います。そのような中で、人間教育とは何かと常に悩んでいます。
今私の中にあるのは、「安心と安全」です。オリンピック当時、テロなどもありましたが選手間での諍いはありませんでした。このような「安心と安全」を、人間としてどのように教育していくかが私のテーマです。