セミナーレポート

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2018.11.07

2018年9月9日開催 これが世界標準の教育!「国際バカロレアはどんな教育?」セミナー

平成30年9月9日(日)開催
教員人材センター セミナー

講師・学校紹介


荒木 貴之 先生
武蔵野大学附属千代田高等学院千代田女学園中学校 校長
武蔵野大学教育学部・大学院教育学研究科 特任教授
日本アクティブラーニング学会 副会長

武蔵野大学附属千代田高等学院ならびに千代田女学園中学校の校長をしています。また大学院で「国際教育研究」の授業とゼミを担当しています。大学院の授業では、国際バカロレア、付随する国際的な教育の知見や動向をテーマに講義をしています。
私はもともと東京都の公立中学校の理科の教員でした。私が教員をしていた約25年前はインターネットが普及し始めていた頃でした。その頃100校プロジェクトという、校内でインターネットを導入する取り組みが行われておりました。東京都から大学院に派遣され、そのプロジェクトに関わっていました。
その後教育委員会で勤め、人権教育などに携わっていました。その頃の同期は各方面で活躍しています。その一人に現在千代田区立麹町中学校の校長である工藤先生がいます。彼は定期テストを廃止したり、クラス担任を廃止したりと校内改革を積極的に進めている先生です。
立命館小学校の立ち上げに関わることから私学の世界に入りました。立命館小学校では百ます計算で有名な陰山 英男先生とともに副校長を務めるなど、教育の各分野で著名な方と仕事をしました。その後、大阪の追手門学院でグローバル人材育成に関わる取り組みをしていた頃に河合塾から話があり、ドルトンスクールを中学・高校で作るというプロジェクトに関わりました。このドルトンスクールはドルトン東京学園中等部・高等部として、2019年4月に開校します。
このように、新しい教育、新しい学校づくりに携わってきました。

本校は東京都千代田区にある中高一貫校です。今年(2018年)4月に現在の校名である“武蔵野大学附属千代田高等学院”となりました。以前は“千代田女学園高等学校”でした。なお中学校は“千代田女学園中学校”です。 本校は浄土真宗の僧である島地黙雷(しまじもくらい)師が創立した女子文芸学舎が基になっており、今年で創立130周年を迎えました。男女共学化、国際バカロレア認定と大きく変化をしています。
武蔵野大学附属千代田高等学院千代田女学園中学校 HP

国際バカロレア(IB)概要

 
国際バカロレア(以下IB)は1968年スイスのジュネーブにおいて、インターナショナルスクール間で合意された教育プログラムです。当初はディプロマプログラム(DP)のみでしたが、1994年に中等教育プログラム(MYP)、1997年に初等教育プログラム(PYP)が作られ、現在は3歳から19歳までを対象としたプログラムとなっています。 2018年4月1日時点では世界140以上の国・地域、5,119校で実施されています。
日本では約40校がIBプログラムを実施しています。政府はIB認定校を200校にすると掲げていましたが、難しい状況です。しかし最終的には80校ほどはできるのではないでしょうか。以前、IB認定校はインターナショナルスクールが多かったのですが、現在各地で一条校の認定校がでてきています。これら各地の認定校がパイロット校となり、その地域に「探究学習」や「生徒中心主義」による教育など、IBの教育手法を広めていく役割を果たすのではないかと期待しています。

IBの使命

 
IBは“世界市民の育成”を使命としています。また以下のような理念を掲げています。

国際バカロレア(IB)は、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としています。

この目的のため、IBは、学校や政府、国際機関と協力しながら、チャレンジに満ちた国際教育プログラムと厳格な評価の仕組みの開発に取り組んでいます。

IBのプログラムは、世界各地で学ぶ児童生徒に、人がもつ違いを違いとして理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認めることのできる人として、積極的に、そして共感する心をもって生涯にわたって学び続けるよう働きかけています。


IB認定校はこの理念を大切にします。私立ではあれば建学の理念がありますので、私立学校でIBを取り入れるか否かはIBの使命と建学の理念のすり合わせができるかどうかが重要になります。 なお武蔵野大学附属千代田高等学院は“国際教養人の育成”を理念の一つとして創立されたので、IBの理念と近似性がありました。  

IBの系統性


IBの理念を具体化したものとして“10の学習者像”があります。この10の学習者像を生徒自身が語れることを重視しています。 なおこの学習者像は生徒に限らず教員にも求められるものです。そのため教員としてどうあるべきかは常に考える必要があります。 このような学習者を育成するためのプログラムが“PYP”“MYP“DP”です。IBが設立された当初はDPの約2年間のプログラムのみでしたが、2年では育成することが難しいため、中等、初等のプログラムが作られました。特にPYPでは「自分は何者であるか」「自分はどのような時代に生きているか」などを問うなどとても哲学的な内容となっています。 なおアメリカでは約1,000校が認定されていますが、PYPを導入している学校が多いです。IBに認定されていることは教育の質の保障になっているからです。一方日本ではDP導入校が多いです。これはグローバル人材の育成を念頭におき、海外大学進学や留学を経団連が応援していることも関係しているようです。

<10の学習者像>
探求する人、知識のある人、考える人、コミュニケーションができる人、信念をもつ人、心を開く人、思いやりのある人、挑戦する人、バランスのとれた人、振り返りができる人

※詳しくは文部科学省のリンクをご覧ください。
文部科学省 国際バカロレアについて「10の学習者像」

<IBプログラム>
PYP (Primary Years Programme) 3-12歳
精神と身体の両方を発達させることを重視したプログラム。どのような言語でも提供可能。
MYP (Middle Years Programme) 11-16歳
青少年に、これまでの学習と社会のつながりを学ばせるプログラム。どのような言語でも提供可能。
DP (Diploma Programme) 16-19歳
所定のカリキュラムを2年間履修し、最終試験を経て所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格(国際バカロレア資格)が取得可能。原則として、英語、フランス語又はスペイン語で実施。
IBCP (Career-related Programme)
生涯のキャリア形成に役立つスキルの習得を重視したキャリア教育・職業教育に関連したプログラム。一部科目は、英語、フランス語又はスペイン語で実施。

※参照元「文部科学省IB教育推進コンソーシアムHP」
文部科学省IB教育推進コンソーシアム「IBを知る」
 

IBの授業の特徴


IBは世界の教育のベストプラクティスを参考にしながら、常にバージョンアップされています。文部科学省の今次学習指導要領の改訂にも影響を与えている部分は多いと思われます。 また、指導の方法(ATT)や、学習の方法(ATL)が明確に定められています。 授業では10の学習者像、指導の方法、学習の方法をベースにして構成されます。なお、IBでは1クラスの人数を25人以下とすることも、特徴の1つとなります。

Approach to Teaching(ATT:指導の方法)
1.探究を基盤とした指導
2.概念理解に重点を置いた指導
3.地域的な 文脈とグローバルな 文脈において展開される指導
4.効果的なチームワークと 協働を重視する指導
5.すべての学習者のニーズを満たすために 差別化した指導
6.評価(形成的評価および総括的評価)を取り入れた指導

Approach to Learning(ATL:学習の方法)
1.思考スキル
2.コミュニケーションスキル
3.社会性スキル
4.自己管理スキル
5.リサーチスキル

評価は校内の評価と外部の評価があり、おおよそ校内30%、外部70%となっています。この外部評価の割合の高さが世界標準としての担保となっています。なお内部評価と外部評価がかけ離れている場合は内部評価が適正に行われているかどうかが問われることとなります。
 

教員の働き方・意識


教員の意識にも変化が必要です。本校では先生方に本業とそれ以外のことについて“50:50”で取り組んでほしいと伝えています。それぐらい余裕をもって本業にあたってほしいのと、常に学び続ける学習者であってほしいという願いから、そのような話をしています。先生のパフォーマンスを縛り付けず、外部での活動も評価しています。今年はタイのバンコク日本人学校に英語の先生を送りました。優秀な先生を送り出すことは学校運営上判断が必要となりますが、戻ってきた時に一層活躍をしてもらいたいと考えています。 また“生徒中心主義”を掲げています。手厚い指導というのは、一方で生徒の自主性や自発性、自律性の成長を阻害する恐れもあります。生徒には先生方の授業評価アンケートにも協力してもらっています。アクティブラーニングからアダプティブラーニングへと学習の個別化を進めるとともに、生徒たちの将来を見据えながらICTなどが当たり前に活用される状況に適応できるように促しています。 “前例に囚われない” 本校では7:30から授業が始まりますが、実際には本校以外も行っています。たとえば九州地方の学校では0時限を設定し、早朝から授業を行っている学校もあるようです。また2018年は4月1日に入学式を行いました。これは来年、再来年も同様です。入学式後には、できるだけ早くオリエンテーション合宿を行い、生徒たちにはマインドチェンジをしてもらいます。 “経費の20%の削減”も常に話しています。紙資料をデジタルにし、連絡はTwitterなど無料のネットワークも活用し、無駄を取り除くようにしています。削減した上で5%は新しいものを生み出そうとしています。