近年、アクティブラーニングは教育現場で注目されています。文部科学省も平成29年度の「新しい学習指導要領の考え方」のなかで、アクティブラーニングの重要性に言及しています。そのため、教育に携わる人やこれから教員を目指す人は、アクティブラーニングについてしっかり理解を深めておくことが大切です。
そこでこの記事では、アクティブラーニングの意義や手法、事例、課題について詳しく解説していきます。
目次
アクティブラーニングとは、従来のような受動的な授業方式ではなく、生徒自ら能動的に学習プロセスに参加する学習手法のことです。具体的には、グループ・ディスカッションやグループワーク、ディベートなどを取り入れた授業を指します。アクティブラーニングで身につけられるのは単純な「知識」だけでなく、「主体的に学ぼうとする姿勢」です。
能動的な学習により学習成果が向上することは、数々の研究・論文によって示唆されています。アクティブラーニングの重要性を示す根拠としては「学習定着率」が挙げられます。アメリカ国立訓練研究所の研究によると、座学の講義の学習定着率は5%、読書は10%となっており、座学のような受け身の学習の効果は、読書にすら劣るとされています。
文部科学省がアクティブラーニングの導入を推進するのには理由があります。現代では、AIをはじめとするテクノロジーの発達やグローバル化などによって、急速に社会や人々の価値観が変化し続けています。従来の社会構造を前提としたやり方では、社会が変化するスピードに対応することが難しくなっているのです。
今後さらに変化が加速していく社会においては、自ら積極的に考え行動し、多くの情報にアクセスしながらイノベーションを生み出せる人材の育成が必要不可欠でしょう。また、グローバル化にともない、人々の価値観も多様化しています。
状況に合わせて相手の価値観を理解しながら自分の意見を発言したり、相手の立場になって表現を選んだりなど、価値観の異なる他人と協調しながら行動していく力も求められるのです。
アクティブラーニングには、さまざまな手法があります。代表的なものとして、「Think-Pair-Share」「ジグソー法」「ラウンドロビン」「ピア・インストラクション」「KP法」があります。
「Think-Pair-Share」では、ある課題について自分で考え、その考えをもとに他人と意見交換をします。そして、最後に全体で考えて意見をまとめるという手法です。
「ジグソー法」では、グループ内で一つのテーマを分割し、それぞれが一つの内容について勉強します。その後、学んだ内容を持ち寄り、協力して一つの答えを導き出す手法です。
「ラウンドロビン」では、グループに分かれ、あるテーマに関して各人が順に意見を述べていきます。
「ピア・インストラクション」は、与えられた課題に対し、解答までに至るプロセスや根拠をグループ内で教え合う形式です。
「KP法」は紙芝居プレゼンテーションの略で、黒板を使用せず、紙に授業の内容をまとめて説明する手法です。
アクティブラーニング型授業を成功させるには、まず授業の目的やコンセプトを明確にする必要があります。「生徒にどうなってほしいのか?」「なぜアクティブラーニングを実施するのか?」「なぜ数ある手法のなかでもジグソー法を選ぶのか?」など具体的に考えておきましょう。
目的やコンセプトが不明確だと、授業の方向性が定まらず失敗につながってしまいます。授業の目的や意義をきちんと生徒と共有し、自発的な参加を促しましょう。浅薄な内容になってしまわないよう、教員が適宜介入して議論を深める手助けをすることも必要になります。
授業をスムーズに進めるためには、教員側の事前準備も重要です。アクティブラーニングの本質をしっかり理解した上で、綿密なシミュレーションをしておきましょう。
日本国内の高校のおけるアクティブラーニング実施率は、すでに90%以上といわれています。ここでは、具体的な事例を紹介します。
埼玉県立浦和高等学校では、2010年度より東京大学CoREFと連携し、アクティブラーニングを実施しています。知識構成型ジグソー法を採用し、生徒の協調性を確立することが目的です。協調学習が目指すところは、「生徒がわかりかけていることを自力で言葉にして考えること」にあります。例えば、英語の授業なら「自分が伝えたいことをしっかり英語で話せているか?」といったところがポイントです。
授業では、まず3つのグループに分かれて、それぞれ異なるテーマで話し合う「エキスパート活動」、次にグループを解体して新しいグループを組んで話し合う「ジグゾー活動」、最後に、グループ内で話し合った内容を全体で発表する「クロストーク」を行っています。
産業能率大学では、グループワークやプレゼンテーションを採用した学習、企業や街と連携して授業など、学生が主体的に学べる場を設けているのが特徴です。例えば、地域のイベント企画やアーティストプロモーション、スポーツプロモーションなどを授業に取り入れています。
企業とのコラボでは、実際にビジネスの現場に触れることで理論と実践を組み合わせて学ぶことができ、現実で発生する課題を解決するための力を養えます。考えた解決策をプレゼンテーションするアウトプットの場を設けています。
ちなみに、産業能率大学の小林昭文教授は日本におけるアクティブラーニングの第一人者です。アクティブラーニングに関する書籍も出版しています。
アクティブラーニングは新しい手法であり、種類もさまざまであるため、授業を行うためには教員も勉強する必要があります。さらに、凝った内容だと準備に多くの時間がかかり、負担が大きくなってしまいます。
教員には、授業のほかにも部活動や生活指導などさまざまな業務があります。そのため、アクティブラーニングをスムーズに導入するには、教員自身が勉強する時間を確保することが重要なポイントになるでしょう。
アクティブラーニングは座学とは異なり、グループでの議論やフィールドワークを取り入れることが多いため、従来の授業よりも時間がかかりがちです。文部科学省がアクティブラーニングを推奨していても、これまでより学習項目が減るわけではありません。通常の授業も進める必要があることから、どうしても時間が足りなくなってしまいます。
生徒が自主的に学習に参加する授業スタイルは、教員側での進行のコントロールが難しくなるという問題もあります。生徒が積極的に取り組み、授業が盛り上がるほど、時間が足りなくなるというジレンマに悩まされるかもしれません。
講義型の授業は、提出物や定期テストの点数で評価を決めることが一般的です。しかし、アクティブラーニングは、授業に対する姿勢も重要な評価ポイントとなります。そのため、評価基準があいまいで、点数化が難しいケースも多いのです。
また、通常の授業の課題やテストとは異なる評価方法にすると不公平感が生じ、生徒から反発を招く恐れもあります。例えば、授業に対する姿勢を評価すると、どうしても「対話が苦手な人」は評価が低くなる可能性があります。
アクティブラーニングはもともと大学教育で取り入れられていた手法ですが、現在は小・中・高でも広く実施されています。
これから教員を目指す人、教員としてさらにステップアップしたい人は、今回紹介したポイントを参考にして、アクティブラーニングへの理解を深めておきましょう。
教員人材センター編集部
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