日本の学校で教員不足が深刻な問題に!先生が足りない原因と対策方法について解説

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日本の学校で教員不足が深刻な問題に!先生が足りない原因と対策方法について解説
少子高齢化が進み、子供の数も年々減っている現代の日本では、学校の教員も不足していることをご存知でしょうか。子供が少なければ教員の数は少なくてもいいと思われがちですが、教員を志望する人の減少、産休などの休暇を取得する教員の多さなど複数の要因により、日本全国で教員が足らない状況となっているのです。

本記事では、教員不足の状況とその要因と問題に加えて、現在実施されている教員確保のための取り組みについて解説します。

教員不足の状況について

教員不足の状況について

日本では、現在進行形で急速に少子化が進んでいます。子供の数が減っているということは、学校で勉強を教える教員の数が余ってしまうのでは、と考える方もいるでしょう。しかし現状は、その反対なのです。

文部科学省の「教師不足に関する実態調査」によれば、2021年5月時点で全国の学校に配当されている教員定数に達していない「教員不足」の状態は小学校で979人、中学校で722人、高等学校が159人というデータが出ています。教員不足の割合では小学校が0.26%、中学校は0.33%、高等学校が0.1%という結果でした。都道府県別に見ると、特に教員が不足しているのは島根県で、教員の充足率が全国で最も高い1.46%でした。次いで0.88%の熊本県、0.81%の鳥取県と続きます。

全国で教員不足の状況が続いている一方で、教員を志望する人の数は減少傾向にあります。2000年の公立学校教員採用選考試験の倍率は13.3倍だったのに対し、2021年の倍率は3.8倍で、教員志望者の数はこの20年で明らかに減っているのです。

このような教員不足の状況について、2022年4月22日の記者会見で末松信介文部科学大臣は「昨年度同様依然厳しい状況。教師不足解消のために特別免許状の積極的な活用を依頼するよう事務連絡をした。特別免許状授与手続き、基準の透明化、多様な人材確保などを包括的に議論し、その結果を踏まえて多様で質の高い教師確保の取り組みを加速させたい」と述べています。

※参考:
【文部科学省】「教師不足」に関する実態調査教師不足に関する実態調査
【文部科学省】平成13年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について
【文部科学省】(参考資料)R3年度教員採用選考試験実施状況(第1-9表)

地方のみが教員不足とは限らない

教員不足は人口が少ない過疎部の地方で起こっていると思われがちですが、必ずしも都市部で教員数が足りているとはいえず、実際は地方だけでの問題ではありません。確かに、最も人口の多い東京都の教員不足率は0%ですが、同じ首都圏の千葉県や神奈川県、埼玉県の不足率は全国平均を上回る数値です。

人口が多い政令指定都市のみのデータでも、不足率が0%は千葉市、名古屋市、大阪市、神戸市、北九州市のみで、その他の全国の政令指定都市はすべて教員不足の状態となっています。

※参考:【文部科学省】「教師不足」に関する実態調査教師不足に関する実態調査

教員不足の要因



人口や都市の規模などにかかわらず、教員不足は全国各地で発生しています。では、なぜこのような教員不足が各地で起こっているのでしょうか。

教員不足の要因としてまず挙げられるのが、見込み数以上に教員が必要だったことです。産休や育休、病休取得者が見込み以上に多く、その補充のための臨時的任用教員(※1)の数が増加しました。さらに、前述の公立学校教員採用選考試験もかかわってきます。近年は教員採用選考試験の倍率が低下傾向であり、その分合格しやすくなっています。

また、これまでは、試験の不合格者が講師名簿(※2)に登録をして「なり手」となっていました。しかし合格者が増えることにより講師名簿登録者が減少し、結果的に臨時的任用教員や非常勤講師の数も減っているのです。つまり、教員採用選考試験の合格率が上がったことにより、教員不足が起こっているというわけです。

※1臨時的任用職員:常勤職員に欠員が出た際に臨時任用される職員
※2講師名簿:臨時的任用職員として働くために登録するもの。欠員が生じた際はこの名簿から任用される

教員不足によっておこりうる問題

ここまで解説してきたように、日本の学校では教員不足が全国的な問題となっています。多くの都道府県で教員の数が足らなくなることによってさまざまな問題が起こりうると考えられますが、中でも特に大きな問題として挙げられるのが、「子供たちへの不利益」と「教員の取り合いの発生」の2点です。そこで、この2つの問題について詳しく説明していきます。

子供たちに不利益

産休や育休、病休の教員が増えると、当然ながら教員の数は足らなくなります。小学校では、教員不足により本来は授業を担当しない教員、または管理職が教壇に立つケースも発生しています。
中学校や高校でも、同じ専門科目の教員の穴埋めのために受け持つ授業が増え、教員1人あたりの負担が増えるケースもあるほどです。

教員一人ひとりへの負担が増えると、生徒と接する機会や時間が減ることが考えられます。通常であれば生徒は授業の合間や休み時間に不明点を質問したり、勉強を見てもらったりできるものですが、授業が増えてしまうと教員にその余裕がなくなってしまうからです。

また、担任や専門科目の教員が休みになり、代替の教員が見つからない場合、その授業が自習になることもあります。自習ばかりが続いてしまうと、生徒の学習の遅れが発生してしまうことも考えられます。

このように、教員不足は生徒が十分に学習できる環境が整えられなくなるばかりか、学習の遅れの原因にもなってしまうという不利益が生じるのです。

教員不足の各地で教員の取り合いが発生する

この20年で倍率が大幅に低下している公立学校教員採用選考試験の倍率からもわかるように、近年は教員を志望している人の数そのものが減少しています。2021年の採用倍率は小学校と中学校で過去最低を記録しており、高校の採用倍率は前年度より若干増えてはいるものの、いずれの学校も採用者、受験者数は減少しています。

教員になりたい人が少ないということは、今後さらに教員不足が続くことが見込まれるということです。教員不足の学校は、他の教員の負担を増やさずに、教員不在で授業を行えない事態を防ぐためにも、新たな教員の採用に力を入れなければならないはずですが、すでに臨時的任用教員も不足しているため、教員の取り合いも発生しているのが現状です。

また、教員の穴を埋めるための人材を採用できなかった場合、その学校に在籍している教員で補充しなければならず、教員不足が解消しないまま他の教員の負担ばかりが重くなる悪循環となってしまいます。

※参考:【文部科学省】R3状況調査

教員の確保に向けた取り組み

教員の不足、それに伴う教員の取り合いを解消するためには、現状のままでは何も解決しません。積極的に教員を確保するための取り組みが必要です。現在は、教員確保に向けて各都道府県、市町村でさまざまな取り組みが行われています。では、実際にどのような取り組みが行われているのかをご紹介します。

数年先を見越した採用計画

5年、10年先を見越して採用計画を立てることで、新規採用者数や講師数を管理する取り組みです。各自治体で目標を立てることによって採用者数をフラットにして講師数を調整しながら、新規採用者と講師の数を管理します。すでに多くの自治体で5カ年、10カ年での採用計画が策定されています。

例として、神戸市では5カ年の採用計画を作成しています。神戸市では学級編制基準を見直しが行われたことにより、小学1~2年での35人学級、小学3年~中学校での40人学級の導入を進めていますが、この影響で起こりうる教員定数の増加や特別支援学級の増減などの予測を反映し、計画的な採用実施に取り組んでいます。

※参考:【神戸市】協議事項53:学級編制基準の見直しについて

年齢に合わせた採用や人事配置

公立学校で働く教員は地方公務員と同じ扱いであるため、定年年齢は原則60歳です。教員採用選考試験の受験可能年齢は自治体により異なり、41~58歳など制限があります。そのため、ある程度の年齢になると教員採用選考試験そのものの受験要件から外れてしまい、教員として働くことは不可能です。
そこで、各自治体では教員採用選考試験の年齢制限を拡大または撤廃し、30~40代の教員採用を積極的に行う取り組みを行っています。

年齢制限緩和を行う自治体は増えており、2020年度時点での教員採用選考試験では年齢制限を設けない自治体が41県市、41~50歳に設定している自治体も23県市で、特に制限を設けない自治体が増加中です。

その他にも、山梨県のように採用見込み数算出のために早い段階から教員を対象に再任希望調査の実施や学校訪問などを行う自治体もあります。

※参考:【文部科学省】5.受験年齢制限の状況(第8表より抜粋)

大学との連携の強化

自治体や教育委員会が、同じ自治体または周辺自治体に位置する大学との間で教師養成塾やインターンシップなどを実施、または教職の魅力を発信するなどの方法が、大学との連携強化です。

隣接する島根県と鳥取県では、両県の教育委員会と島根大学が連携し、教育・研修システム構築を行っているほか、埼玉県では県内の複数の大学と協定を結び、教員養成や魅力発信の充実を図るなど、各自治体で大学との連携強化に取り組んでいます。

その他にも、大学に推薦枠を設けることで連携強化を図る自治体もあります。福岡市では2023年度の教員採用選考試験より「教員養成にかかる連携・協力協定」を締結する15大学・短大の現役学生を対象とした大学連携特別選考を導入するなど、各自治体で独自の方法の連携強化の取り組みがなされています。

学校・子供応援サポーター人材バンク

文部科学省は、教育委員会や学校が必要としている人材を探せるよう、「学校・子供応援サポーター人材バンク」を開設しました。これは大学生や塾講師、退職教員などを対象に登録者を募り、さまざまなサポートを必要としている学校現場で適した人材を登録者から探せるように整備されたものです。
登録には教員免許が必要ないため、教員免許が失効した方や教員免許を取得前の学生でも登録可能です。

学校・子供応援サポーター人材バンク経由での勤務は自治体によって勤務条件や勤務時期などが異なり、登録すれば必ず採用となるわけではないものの、この人材バンクを積極的に活用することで臨時的任用教員の確保をスムーズにして、教員不足を補えることが期待できます。

教員不足の原因や就労観を踏まえた対策を行っていきましょう

都市や都道府県の規模にかかわらず、日本全国で教員不足が問題となっている現状を解説しました。教員不足は働く現場のみならず、子供たちの学習にも大きな影響を与えてしまいます。

この状況を改善するためには、教員の養成・採用・入職後それぞれの対策が必要です。
現在、学校の働き方改革や教員の魅力を伝える取り組みが進んでいます。それらが着実に進めるとともに、以前と変化している就労観に合わせた取り組みも大切です。

びす太(KJC-01)

教員人材センター編集部

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