教員採用試験の気になる倍率や日程は?過去の傾向から解説
教員を目指している人の最後の関門になるのが、教員採用試験です。せっかく教員免許を取得しても教員採用試験に合格し、実際に配属が決まらなければ正式に「学校の先生」としては働けません。しかし、世間的に教員採用試験の難易度は高いと言われているため、事前にしっかりと情報収集をすることが重要です。
そこでこの記事では、教員採用試験の概要や難易度が高いと言われる理由、合格のための対策を紹介します。
一般的に、教員採用試験とは「公立学校の教員試験」のことを指します。正式には「教員採用候補者選考試験(検査)」という名称で、都道府県や政令指定都市の教育委員会が主体となって実施しています。
教員採用試験に合格すれば教員になる目標に一歩近づきますが、そのまますぐに働けるとは限りません。合格者は、各自治体が作成する「教員採用候補者名簿」に成績順で記載されるからです。つまり、教員採用試験に合格しても、その年の採用人数が少なかった場合には自分まで順番が回ってこず、採用内定が出ないケースもあります。
教員採用試験を受けるためには、教員免許を取得済み、または取得する予定であることが前提条件となります。自治体によっては一定年齢以上の人は受験できない、いわゆる年齢制限が定められている場合があるので注意しましょう。
文部科学省の「平成31年度公立学校教員採用選考試験の実施方法について」によると、年齢制限のない自治体はおよそ46%でした。一方で、上限の年齢が51~59歳までが6%、41~50歳までが41%、36~40歳までが7%という結果になっています。年齢が上がると、受験できる自治体の選択肢は減るため注意が必要です。
平成30年4月1日地方公務員給与実態調査結果
P10.第 7 表-1 受験年齢制限:平成 31 年度 (単位:県市)
36~40 歳:5
41~50 歳:28
51~58 歳:2
制限なし:33
第1~8表(平成31年度公立学校教員採用選考試験の実施方法について)|平成31年度公立学校教員採用選考試験の実施方法について:文部科学省
教員採用試験の大まかなスケジュールとしては、筆記や面接などの1次試験が6~7月、実技などの2次試験が8~9月に行われるのが一般的です。その後、10月ごろに合格発表があり、4月までの間に合格者を対象にした学校長や教育委員会による研修や面談などが実施されます。
なお、教員採用試験の日程は基本的に併願できないように、近隣の地域で重複するように設定されています。しかし、日程が重複していない遠方でもよければ、併願すること自体に問題はありません。その際は地域が異なることによる試験対策の違いや、2次試験の日程重複に注意しましょう。
受験準備のスケジュールは人それぞれ異なりますが、大学生は3年生の9月ごろから筆記試験の勉強を始め、4年生になってから受験するケースが一般的です。願書の受付は3月下旬から4月ごろに実施要領が発表されてからになります。
出願する際は、一般的な就活と同様に自己PRや志望動機などを記載した書類をそろえることが多いですが、一部の自治体では短めの論作文を提出しなければいけない場合もあります。
教員採用試験は、あくまでも公立学校の教員として働くための試験なので、私学教員の採用フローとは異なります。試験内容については、筆記試験や面接試験、模擬授業など、どちらもそれほど大きな違いはありません。
しかし、私立学校では面接は複数回行われ、受験する学校の校風や教育理念に適した人材であるかを重点的にチェックする傾向が強いようです。私立学校では採用された場合、一般のサラリーマンと同様、基本的にその学校でずっと働くことになるからです。教育委員会の管轄するエリア内で異動がある公立学校の教員とは、その点で大きく異なります。
また、自治体によっては私学教員適性検査を合同で実施している点も特徴です。たとえば、群馬や東京、静岡、愛知、兵庫、広島、福岡、長崎が挙げられます。私学教員を目指す場合は、試験内容で重視する項目や、そもそもの受検方法が教員採用試験とは異なることを理解しておきましょう。
教員採用試験の難易度が高いと言われる理由のひとつに、「近隣の地区で日程が重複するため、複数の自治体で受験できない」ことが挙げられます。つまり、併願が難しいので基本的に一発勝負になってしまい、結果的になかなか希望する自治体に合格できないという人が多いのです。
一般的な大学受験では「記念受験」や「お試し受験」など、気軽な気持ちで受験する選択肢もありますが、教員採用試験では、ほとんどの人が本気で挑戦することが考えられます。そのため、大学受験に比べると、相対的に難易度が高いと感じる人が多いのでしょう。
また、ライバルのなかには何度も挑戦している人もいます。実際の受験生全体のうち、半分以上は受験経験のある既卒であると言われているので、必然的に難易度は高くなりがちです。試験内容も、最近では筆記試験より面接試験のほうが重要視される傾向にあります。単純な暗記だけでは突破できなくなっているのです。
教員採用試験の難易度はたしかに高いですが、倍率が下落傾向にある点は受験生にとって追い風です。倍率が下落傾向にある理由は、「団塊世代の定年退職」「民間における売手市場」などが挙げられます。団塊世代の教員が定年退職を迎えつつあり、人手が足りなくなった現場が教員を多めに採用しているケースがあります。
また、同じ理由で民間が人手不足になっているため、好条件で採用を行っている民間企業が多いのも要因のひとつです。安定している教員よりも給与などの面で有利な民間企業で働くことを選ぶ人も増えています。
さらに、ニュースで残業の多さや保護者対応によるストレスなどといったデメリットが報道されることが増え、一部で教員の人気が低迷しつつあるのも倍率が下がっている要因だと言えます。
いずれにしても、教員採用試験が難しいとはいえ、倍率が下落傾向にあるのは教員を目指している人にとってはチャンスです。本気で目指しているのであれば、この機会を逃さずに挑戦するとよいでしょう。
教員採用試験の内容は自治体によって異なるものの、以下4つから成り立っていることがほとんどです。
以下で、それぞれの試験内容について紹介していきます。
筆記試験は、下記の4つに分かれます。
教職教養試験では教員として働くための教養が備わっているかを試す試験として、
一口に面接試験といっても、個人面接や集団面接、集団討論など実に多くの方法があります。どの面接試験を採用するかは各自治体の判断によりますが、最近の教員採用試験の傾向として、筆記試験よりも面接試験が重視されつつある点には注意しましょう。
面接試験の配点が高い傾向にあるのは、画一的な知識よりも教員としての総合力に長けた人物を採用したいという思惑があるからです。実際に、面接試験は一度だけでは終わらず、複数回実施するケースも増えてきています。
内容についても、集団活動で人間性を確認したり、模擬授業や場面指導で実際に指導する能力を試したりといったように、よりバラエティーに富んだものになっているのが特徴です。
面接担当者は、従来は校長や教頭または教育委員会の職員でしたが、客観的な判断をするために、弁護士や民間企業の人事担当者に面接役を依頼する事例も増えてきました。このように、採用する側もかなり力を入れてきているケースが多いので、筆記試験だけでなく面接試験もしっかりとした対策が必要です。
筆記試験や面接試験が1次試験なのに対して、実技試験は2次試験という位置づけで行われるケースが多いでしょう。対象となるのは、小学校の教員や、中学・高等学校の英語や音楽、美術、家庭科、保健体育の教員を目指す人です。
実技試験では、突出したスキルというより基本的な内容が問われます。たとえば、家庭科では課題として出された被服や調理、体育ではマット運動や跳び箱などを実際に行います。
もちろん、優秀な成績を修めたほうが良いのですが、試験に取り組む姿勢もチェックされることは理解しておきましょう。いくら成績が良くてもほかの受験者に迷惑をかけるような行動をとると、評価が低くなる可能性があります。
教員採用試験では、官公庁の採用試験でも行われているような適性検査も実施されています。具体的には、内田クレペリン精神検査や、YG性格検査、MMPIなどです。適性検査は受験者が教員として働く資質に問題がないかを見極めるために実施されていますが、実際には合否に大きく影響するケースはほとんどありません。
適性検査と聞くと思わず身構えてしまう人もいるでしょうが、あまり考えすぎず素直に回答していくとよいでしょう。採用する側はあくまで参考値として検査するだけなので、基本的には特別な対策を考えなくても大丈夫です。
筆記試験は全部で4つの種類がありますが、どれも過去の問題から大きく変更されるケースは稀です。そのため、基本的には過去問や教科書で事前にしっかり勉強しておくことが重要になります。
特に教職教養試験では、全国いずれかの自治体で過去に出題されたのと似た問題が多く出る傾向にあるので、過去問を重点的にこなしましょう。
一般教養試験は、高校レベルまでの問題が5教科均等に出題されるので、参考書などを読んで満遍なく知識を身につけることがポイントです。時事問題対策としては新聞やニュースなどを日頃から読む習慣をつけておくとよいでしょう。
専門教養試験は小学校の場合、一般教養試験と同じく出題内容が広く浅くなる傾向にあるため、参考書や教科書を読み込むことをおすすめします。中学や高校の場合は、大学レベルの問題が出題されるため、大学入試対策の問題集を解くのも方法のひとつです。
論作文はどのような課題が出されるかで対策は異なりますが、「教員目線で実践的な内容を記述する」という点が重要なのは変わりません。教員として働くための強い熱意をアピールするのもポイントです。
教員採用試験対策として頭に入れておきたいのは、筆記試験よりも面接試験や人物評価が重視される傾向にある点です。自治体によっては、人物評価の配点が筆記試験の2倍程度になることもあります。筆記試験対策ばかりに力を入れてしまうと、教員採用試験の合格は遠のいてしまうでしょう。
面接試験や人物評価で問われるのは、受験者の人間性や教員としての資質、教育に対する考え方です。つまり、教員として働くのにふさわしい人物であるかを道徳的な観点からも評価しています。グループワークなどを通じて、ほかの教員と協調性をもって働けるかどうかも重要な判断材料になっているケースも多いようです。
対策としては、あらかじめ質問を想定しておき、それに対する答えを用意しておくことが基本になります。しかし、試験当日はフレキシブルな質問が予想されるため、答えを丸暗記するだけでは対応できません。事前にきちんとシミュレーションしたうえで、練習を重ねましょう。
面接試験では、集団討論や模擬授業といった試験もあります。
集団討論では、つい自分の意見を発表することだけにとらわれてしまいがちですが、それだけでは評価につながらない可能性があります。他人の意見に耳を傾けたうえで、自分の意見との違いや共通する部分などを発表すると議論が盛り上がりやすいです。
一方、模擬授業ではわかりやすい授業を展開するのはもちろん、できるだけ元気に明るく行うことを意識しましょう。子どもたちが積極的に授業に取り組めるような工夫があれば、さらに評価は高まります。
実技試験は記録や出来栄えだけでなく、正しいフォームや作業工程で取り組んでいるかも重要視されます。苦手な科目がある場合には、基本的な要素を特に入念にチェックしておきましょう。
いずれにせよ一番の対策は「とにかく経験を積むこと」です。しかし、模擬授業や実技試験に役立つ実践経験を積む機会は少ないかもしれません。教育実習の機会を有効に活用するのはもちろん、ボランティアで子供たちに教えるイベントなどがあれば、積極的に参加して場数をこなしていきましょう。
教員試験のスケジュールが毎年のように大きく変わる可能性はほとんどありません。そのため、あらかじめ受験する自治体のスケジュールを確認しておき、逆算して試験対策計画を立てましょう。きちんと計画を立てれば限られた時間を効率的に活用できます。
どのような問題が出るか分からないのに、闇雲に参考書や問題集を解くのは非効率です。前年度の要領を確認したうえで、最適な対策を講じることをおすすめします。
最初からスケジュールを立てておけば、面接や模擬授業対策として有効な教育実習やボランティアイベントへの参加を逃す恐れも少なくなります。
教員採用試験は現役だけでなく、複数回挑戦している既卒の人もライバルになります。このことからわかるように、実際には初めての受験で合格できる人はそれほど多くありません。教員採用試験に挑戦する人は、万が一落ちてしまったときの対処法も知っておきましょう。
教員採用試験に落ちてしまっても教員への道を諦めない人の多くは、臨時的任用教員(いわゆる常勤講師)や非常勤講師として働くことを選びます。どちらも採用期間が決まっている点では同じですが、臨時的任用教員は通常の教員とほぼ同じ仕事が割り振られるのに対して、非常勤講師は決められた授業のみを行うのが特徴です。
そのため、臨時的任用教員は部活を受け持つなど、授業以外の仕事も担当しますが、非常勤講師は授業以外の仕事は基本的にありません。非常勤講師は授業時間に応じた報酬制となっているケースが多く、安定した稼ぎが得られないデメリットはあるものの、試験対策をする時間が多く取れる点はメリットです。
なお、講師として採用された場合、次年度以降の教員採用試験は筆記試験が免除される特例選考の対象となることもあります。
教員採用試験に落ちた場合、教職大学院に進学するのも選択肢のひとつです。教職大学院では、教員としての専門スキルをアップさせるための授業が行われています。卒業までには2年間かかりますが、1年目の時点で教員採用試験を受けることも可能です。1年目に合格しても卒業後に教員として採用してもらえるので、安心して授業を受けられます。
講師として働く場合と異なり報酬は得られず、学費を支払わなければいけないデメリットはありますが、実習が多く用意されているので貴重な経験を積めるはずです。教職大学院の修了者は教員採用試験で優遇してもらえるケースもあるので、進路に悩む場合には受験する自治体に確認してみましょう。
教員採用試験は過去に比べて倍率が低くなっているため、今が狙いどきだと言えます。難易度が下がったわけではないので事前の対策は必須ですが、ライバルが減っている状況は教員を目指す人にとって大きなチャンスでしょう。
ただし、教員採用試験は対応するべき範囲が広いうえ、筆記試験よりも面接や人物評価の配点が高く、受験者の本質的な部分がより重視されるようになっている点には注意が必要です。テキストや参考書の丸暗記だけでは合格が難しいので、早い時期からスケジュールを立てて、十分な対策を講じて挑みましょう。
教員人材センター編集部
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