近年プログラミング教育が必修化となり、教育現場は大きく変わりつつあります。中でも、注目されているのが「STEAM教育」です。名前だけでも聞いた・見たことがある人は多いかと思います。
本記事では、STEAM教育の基本や必要とされる理由について解説します。「STEAM教育とは?」「日本ではどのように取り組んでいるの?」「現状と課題は?」このような疑問を解決します。
今の教育現場を把握するきっかけになるので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
STEAM教育とは、下記5つの頭文字を組み合わせた造語です。
Science…科学
Technology…技術
Engineering…工学
Art…芸術・教養
Mathematics…数学
これら5つの領域を重視し、盛り込んだ教育方針のことを意味しています。
元々は科学技術の分野において競争力を高めることを目的に、アメリカで推進されていた教育方針です。今では日本をはじめ世界各国で広く注目されています。
ちなみに正しい読み方は「スティーム教育」です。
STEAM教育が注目されるようになったのは、IT化やグローバル化に伴い、社会が急激に変化していることが関係しています。スマートフォンやタブレットなどの普及、さらには人工知能やロボットなどが次々と社会に進出しています。今後、AIやロボットの社会進出はさらに進み、ますます便利な世の中となるでしょう。
このように変化する社会の中、科学技術を活用するだけでなく「新たな変化を生み出せる人材」が求められています。STEAM教育は、新しいものを生み出す力を養うために必要とされています。
STEAM教育は文部科学省も推進する教育方針です。政府推進ということもあり、重要性が高いのはいうまでもないでしょう。
文部科学省と経済産業省はなぜ、STEAM教育を進めたいのか?その理由は、大きく変化する社会で、未来を生きる子どもたちが、必要とされる人材へと育成することを目的としているからです。
そんな文部科学省では、下記の能力・スキルをもつ人材育成を目指しています。
これらはすべて、STEAM教育によって実現しようとしている姿そのものです。
また、STEAM教育に関わるキーワードの一つである政府広報「Society5.0」や内閣府「Society5.0」は、経済発展と社会的課題の解決を両立した人間中心の社会です。Society 5.0が実現することで、AIやロボット、自動走行車などの発展によってこれまでの社会問題であった少子高齢化や地方の過疎化、貧富の格差などを克服しやすくなっています。
Society5.0は狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5番目の新たな社会として提唱されています。経済産業省では「2020年代の新しい学習指導要領の実践をどうやって豊かなものにするか」を検討しており、STEAM教育が注目されているのです。
STEAM教育とSTEM教育、どちらも変化を生み出す人材を育てるための教育方法です。しかし、2つ同時に始まったわけではなく、最初はSTEM教育のみでした。
STEM教育には、A(Art/アート)が含まれておらず、理数系の科目だけで構成されています。しかし、ものを作るうえでデザイン性も必要であると考えられ、Artを含めたSTEAM教育が新たに誕生したのです。
つまりSTEAM教育とSTEM教育との違いは、Artが含まれているかどうかです。STEAM教育はデザイン性のArtを取り入れたことで、堅くて難しそうな工学のイメージから、自由で豊かないものづくりのイメージへと変わりました。子どもたちにとっても親しみやすくなっています。
STEAM教育が注目されるようになったのは、オバマ前大統領の演説がきっかけでした。演説の中では、コンピューターやサイエンスのスキルを身につけることは国の未来のために必要であると述べた上で、ゲームやスマートフォンで遊ぶだけでなく自分で作ろう(プログラミングしよう)と訴えています。
このオバマ前大統領の演説に多くの著名人が賛同し、STEAM教育が注目されるようになったのです。今ではアメリカだけでなく、インドやシンガポールなどアジア各国でも注目され広まっています。
今後、日本では10年後以降、全体の49%の仕事をAIやロボットが担うとなるといわれています。さらに現時点では存在していませんが、AIやロボットが主体となる新たな職業が生まれる日も、そう遠くないと予測されています。
つまり私たち人間の出番は減り、AIやロボットの活躍の場はどんどん増えることが予想されているのです。しかも50年100年後のことではなく、10年後と比較的近い未来で起こりえることなので、決して他人ごとではありません。
AIやロボットがほぼ半分の仕事をこなすようになれば、人間は補佐役の仕事しか回ってこなくなるでしょう。まるでAIやロボットに使われる存在となってしまいます。
そこで日本で今後求められる人材は、AIやロボットに使われる人材ではなく、使う側の人材です。さらに欲をいえば、新たなテクノロジーを生み出す力をもつ人材は、これからの社会で強く生きていけるでしょう。
STEAM教育の必要性を強く感じている日本では、どのような取り組みを行っているのでしょう?実際に行われている取り組みを一部紹介します。
2002年に埼玉大学に設置された「STEM教育研究センター」は、ものづくりを通し、科学技術教育や理数教育に力を入れている研究センターです。ロボット技術やプログラミングを子どもたちと一緒に作れます。
また科学の甲子園は、高校生が理科・数学・情報の複数科目で競い合う大会です。科学分野に興味をもつ生徒を増やすことが目的とされています。
そして小学校でのプログラミング教育の必修は、2020年度から始まった新たな取り組みです。小学生のうちからプログラミングを学ぶことで、さまざまなインターネットツールを使いこなせる人材育成を目的としています。
さまざまな取り組みによって、大きく変化する社会に対応できる力を育成しています。
日本での取り組みを紹介したところで、続いては海外にも目を向けてみましょう。
基本的に海外では、日本よりも大きくSTEAM教育を展開しています。例えば、STEAM教育の先駆けでもあるアメリカでは、「High Tech High」というSTEAM教育を実践する学校があります。学校ではあるものの教科書はなく、1日中プログラミングをしたりライフスキル(非認知能力)を学んだりできるのです。
また中国は、STEAM教育を推進している企業「Make block社」の本社があります。プログラミングを学んだり、メカの構造を学んだり、STEAM教育を学びやすい環境となっています。
そして、シンガポールにある政府直属のSTEAM教育機関「サイエンスセンター」では、STEAM教育を社会での使われ方に基づいて受講できます。生徒たちは「なぜSTEAM教育が必要なのか?」という疑問を抱かずに授業を受けられているところが特徴です。
日本のSTEAM教育は他の国に比べるとかなり遅れています。本格的にSTEAM教育が始動したのは2020年と最近です。しかし、出遅れたのはSTEAM教育を軽視していたわけではなく、さまざまな課題があったからです。
最後に、STEAM教育の現状と課題について把握しておきましょう。
教育の現場で新しいことを始めるには、授業体制の改革が必要です。子どもは探求心が強く、興味のあることには積極的に関わろうとします。興味を抱くこと自体はよいことですが、授業体制がしっかり整っていないと危険を伴う場合もあります。STEAM教育を始めるにしても、授業体制の改革は必須ですが教員不足なこともあり、そこまで手が回らないというのが本音です。
さらに教える立場である教員もまた、STEAM教育を学ばなければいけません。しかし、学習する時間の確保が難しいところも、STEAM教育がなかなか進まなかった理由の一つでもあります。
日本は世界に比べ、教育へのICT活用がかなり遅れています。他国ではインターネットを用いて学ぶeラーニングが盛んに取り入れられていますが、日本では2020年にやっと導入されたばかりです。とはいっても全教科に対応しているわけではないので、まだまだ課題は山積みといえるでしょう。
STEAM教育を行う上で、電子環境の整備は重要な部分です。1人1台のタブレット端末の普及など、早急に取り組む必要があるでしょう。
STEAM教育を学ぶためには、少々お金がかかります。タブレット端末の有無、自宅のネット環境(Wi-Fiや回線)、プログラミング教室の受講など、家庭環境によっては差が出やすいものです。
家庭学習でタブレット端末が必要になる際は、自宅にネット回線がつながっていないと宿題もできない状態に陥るでしょう。子どもたちが平等に教育を受けられる環境を整えることもまた、課題の一つです。
日本のSTEAM教育はまだ始まったばかりです。課題をすべて解決できているわけではないので、今後つまずくこともあるでしょう。
しかし、大きく変化する社会の中、「STEAM」の5つの力を養うことは個人だけでなく、日本の未来にとっても重要なことです。AIやロボットに使われる側ではなく、使う側で居続けられるようSTEAM教育は必須となります。
まずは、できるところから始めてみましょう。プログラミング教室への参加やロボット製作など、楽しみながら出来ることであれば、継続して取り組めるはずです。また子どもがいる家庭では、ゲームをするだけでなく「作る」という選択肢があることを教えてみるのもよいでしょう。
教員人材センター編集部
教員人材センターでは、教員の方、教員を目指している方に、教員採用や働き方、学校教育に関する情報を発信していきます。