「学校法人」という言葉をよく聞くものの、きちんと理解している人は少ないかもしれません。法人というと会社をイメージしますが、学校法人は会社なのか、学校法人以外が運営する学校もあるのか、気になっている人もいるのではないでしょうか。
この記事では、学校法人の定義や運営体制、経済面でのメリットなど、教員であれば知っておきたい基礎知識を解説します。
学校法人とは、私立の幼稚園や中学校、高校、大学などの設置を目的に設立される公益法人のひとつです。公益法人は株式会社のように営利を目的とするのではなく、公益の増進を図るために設立されるものです。
国立大学は国によって設置され、公立学校は地方自治体によって設置されます。一方、学校法人は基本的に民間によって設置されるものです。学校法人の運営する各学校が創意工夫して、より良い教育を提供することが期待されます。
そのため、学校法人に対する所轄庁(文部科学大臣および都道府県知事)の権限は、公立学校より限定されているのが特徴です。所轄庁が何らかの権限を行使する場合も、「大学設置・学校法人審議会または私立学校審議会の意見を聴かなければならない」とされています。この点で学校法人は、公立学校より大きな自主性を持てるのです。
しかし、学校法人も「公教育を担う」という点で公の性質を持っているため、基本的に文部科学省の方針には従う必要があります。また、所轄庁は学校法人に対し、教育の調査や統計に関する報告書を求めるなどの権限があります。ちなみに株式会社などと違い、名称に「学校法人」とつける義務はありません。
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「寄附行為」とは、学校法人の目的や名称、資産・評議員に関する規定を定めたものです。企業でいう「定款」にあたります。
学校法人を創設する際は、創設者の私財によって学校に必要な土地や建物、設備や人員が用意されます。これらは寄附とみなされ、創設者の所有とはなりません。また、学校の運営が難しくなっても、公の性質を持つことから勝手に解散はできず、解散理由によっては認可が必要です。さらに、解散しても用意した設備などは創設者の手元に戻らず、ほかの学校法人のために利用されます。
このように、学校法人の創設は公益への寄附の性質が強いものです。諸説ありますが、「寄附によって創設された学校をどう運営するかの規則」として、学校法人における基本規定を「寄附行為」と呼ぶといわれています。
運営・管理体制
学校法人の組織体制は、理事会、監事、評議員会から構成されています。理事会は、運営の最終的な意思決定機関です。5人以上の理事に加えて、外部理事が1人以上いなければなりません。基本的に理事会の意思は理事の過半数をもって決定されます。
理事のなかから議長として選任され、学校法人を代表するのが理事長です。理事会のトップが理事長、設置された各学校の管理者が学長となります。
監事は、学校法人の経営面や教学面、財産状況を監査します。監事は2人以上いなくてはならず、外部監事が1人以上必要です。また、理事会に出席して意見を述べる必要があるとされています。
評議員会は、必要に応じ学校法人の運営について意見を述べる諮問機関です。資産の処分や借金など一定の重要事項について、理事長はあらかじめ評議員会の意見を聞く必要があります。評議員は理事の定数の2倍を超える人数が必要です。また、法人職員か設置する学校の卒業生から1人以上選任するよう規定されています。
準学校法人は、設置できる学校が専修学校と各種学校のみとなっています。各種学校とは、自動車学校、美容学校、洋裁学校など、いわゆる「1条校」でない教育施設です。しかし、準学校法人においても、設立・管理運営・解散などに関しては学校法人と同じ仕組みが準用されています。
私学法第65条に「学校法人でない者は、その名称中に、学校法人という文字を用いてはならない」とありますが、準学校法人はその限りではありません。そのため、学校名に「学校法人」とついている場合があります。
私立学校法
第六十五条 学校法人でない者は、その名称中に、学校法人という文字を用いてはならない。ただし、第六十四条第四項の法人は、この限りでない。
第六十五条|私立学校法
学校法人は公の性質をもつ法人格であり、適切に運営するための種々の規定があるため、信用度が高くなるのが利点です。さらに学校法人では、経営が安定する以下のようなメリットがあります。
学校法人の法人税・事業税は、収益事業以外に関しては非課税です。収益事業から生じた所得には課税されるものの、軽減税率が適用されています。さらに、その所得を学校教育に利用した場合は、所得の50%か200万円のどちらか高い金額を「みなし寄附金」として損金処理できます。学校法人内の事業で得た所得を非収益事業に寄附したという考え方です。
また、保育や教育のために提供した不動産に関しても、固定資産税・不動産所得税・登録免許税などが非課税となります。ほかにもさまざまな優遇がありますが、事業の判定を誤ると思わぬものが収益事業とみなされ、あとから課税されることもあります。学校法人が事業を行う際は、専門家の意見を仰ぎながら慎重に判断することが重要です。
学校法人には、さまざまな補助金が用意されています。たとえば、「私立大学等経常費補助金」は、大学を含む私立学校や幼稚園の教育条件を向上し、経営を健全化するためのものです。国から日本私立学校振興・共済事業団などを通して助成されます。
ほかにも、教育研究の充実や防災の強化を目的とした「私立学校教育研究装置等施設整備費補助金」や、研究施設・IT教育設備の整備経費を助成する「私立大学等研究設備整備費等補助金」といったものがあります。
一般的に、学校法人でない幼稚園などが学校法人化すると、補助金は約4倍になるといわれているのです。経営を安定させ、教育内容をより充実させることが期待できます。
従来、日本で高校や大学などの学校を作れるのは、国や地方自治体と学校法人だけでした。しかし、「構造改革特区」の「教育特区」において、株式会社でも学校を作れるようになりました。「構造改革特区」とは、実情に合わなくなった規制を限定された地域で撤廃し、通常の法規制のもとではできないような事業が行える制度です。
これにより、今までにない特徴の学校を作りやすくなり、個性的・先進的な教育ができるというメリットがあります。実際、現在までに複数の株式会社立学校が設立され、それぞれユニークな教育を提供しています。株式会社が学校教育に参入することで競争原理が生まれ、より質の高い教育サービスを実施しようという動きが高まることも期待できるでしょう。
その反面、営利を追求するため教育がおざなりになるのではないかという懸念や、新規事業のため教育関連法規に精通しておらず誤用がある、といった課題もあります。
学校は、運営主体によって運営方針や意思決定の方法が変わります。学校の運営方針は、現場で働く教員にとって影響力が非常に大きいものです。また、安定した環境を求める人にとっては経営状況も気になります。学校法人の特徴と仕組みを理解して、働く学校の運営や経営についてきちんと把握しておくと良いでしょう。
教員人材センター編集部
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